2012/10/20

『ゼンダ城の虜』第13章、公開

順調に進みまして、第13章:改良版「ヤコブの梯子」をここに公開もうしあげます。今回の記事はむやみに長くなってしまったので見出しをつけました。

前半・ラッセンディル対ルパート

この章はもうとにかく、ルパートですね。ええ。前半部分でもうおなかいっぱいな感じです。訳していて改めて思いますけれど、『ゼンダ城の虜』は会話に妙味のあるシーンがとても多いような印象があります。作者自身、会話部分のほうが得意だということを自覚していたんじゃないかなあ。第一章では説明部分を読み飛ばすことを推奨しているようなフレーズがありますし。

小説論として、「『と、某は怒りもあらわに言った』みたいに地の文に話者の感情を入れるのはへたくそのやることだ」みたいな議論を見かけることがありますが、『ゼンダ城の虜』は、たしかにその手の副詞句が入った会話文が少ないような気がします。いや、ちゃんと調査したわけではないので気のせいかもしれませんけど、印象としてね。その割には、ああ、こういう気持ちのこもった台詞を吐かせたいんだな、という作者の意思はちゃんと伝わってきて、上の小説論者には満足のいく作家ではなかろうか。

まあなんにせよ、オレ個人としては、この章の前半の対話部分はけっこう楽しんで訳せてます。ラッセンディル対ルパートの華やかな嫌味の応酬をどうぞご堪能くださいませ。もっとも、よくわからんので適当に訳出した部分もあったりはします。

"Oh, God gives years, but the devil gives increase," laughed he. "I can hold my own."

このルパートの台詞、よくわからん。なにせ信仰心に非常にとぼしい人間なので、神様を引き合いに出されると理解度9割減なのです。そこで偉大なる先訳者の訳文を拝借しようかと参照するとこんな感じ。

「ふむ、年は神様の下さるもの、増加は悪魔がくれるもの、」と言って彼は笑った。「僕だって、自分の体くらいは、自分で守ることができるんだぜ」(武田玉秋

「何、年の寄るのは神様のおかげで、知恵は悪魔って奴がつけてくれるから、年なんかどうでもいいさ。僕は誰とでも喧嘩はできるからね。」と彼は笑っていった。(宮田峯一

「おお、神は年をあたえたまい、悪魔がそいつを老けさせる、というわけか」とルパートは笑って、「おれはおれで、りっぱにやっていけるさ」 (井上勇

え~と。みなさん意見がわかれたようです。これはもう自由にやってかまわないだろうと考え、前後にかみ合って、かつ、ラッセンディルをいびれるような台詞をこしらえておきました。

「ふん、神は一年ずつ年を進めるが、悪魔にかかると突如いくつも年を食うらしいぜ」とルパートは笑い飛ばす。「オレはあたりまえのペースでいきたいね」

う~ん、いや「神が年を進めれば悪魔が利子を膨らます」かもしれない。でもそうすると、"I can hold my own." が何を指すのかわからなくなるし、この直後で interest を「利子」の意味で使ってくるのとも統一性がなくなるなあ、という気もして、結論よくわからない。

後半・で、“ヤコブの梯子”ってどんな形なのさ?

さて、後半部分は番人ヨハンを尋問しながら“ヤコブの梯子”の何たるかの説明にうつるわけですが、残念ながらホープの困ったところが出てしまっているようで。この人、とにかく説明が下手。“ヤコブの梯子”もいったいどんな形状のものなのか、かなりわかりづらくて……もう!という感じ。まあいろいろ考え合わせますと、断面が方形の土管を、輪状に90度角分、窓から水中に向かって延ばした感じと思ってもらえばいいんじゃないかなあ(左図・下手な絵でごめんなさい)。直角に折れた土管のようにもとれますが、それだとちょっと使い勝手が悪そうだし。あと、出口が水面より上にあるような書き方ですが、それはちょっと前後矛盾するので無視することにしました(こら)。

あと、地下の構造に関する「外側の部屋」「内側の部屋」も、相当わかりづらいと思います……。原著の第3章には Howard Ince によるゼンダ城の見取図(右図)があって、これを見るとなんとなく言いたいことはわかります。これを本文にとりこめるかというと、著作権の状態がいまいち明らかでないので、ためらうところがあり……年代的に言えば問題ないと思うのだけれども。

下手な図で恐縮ですが、濠と地下室の断面図(想像)を準備しましたので、この辺で勘弁してください……。

挿絵について

城の見取り図、のところでちらりと触れましたが、Internet Archive に原著のコピーがあがってきているのでそこからイラストなどを確保できるようになりました。ありがたく使わせていただくということで、チャールズ・ダナ・ギブソン(Charles Dana Gibson, 1867 - 1944)による挿絵を入れこみました。この13章のほかにも、5章10章にそれぞれ1枚ずつ。

Internet Archive の『ゼンダ城の虜』はいくつか版がありますが、1921年(US)版の EPUB フォーマットから抜き出しました。

それにしても Internet Archive / Open Library のオンラインブックモードのなんと使いやすいことか。近デジも負けずにがんばって欲しいなあ。

2012/10/15

『悪魔の辞典』の「愛国心」への補注, およびウィキペディアへのリンク付与

補注「愛国心 / Patriotism」

『悪魔の辞典』の中でもっともよく引用される定義のひとつに「愛国心」があります。

愛国心 n. 燃えるゴミ。自分の名を燦然と輝かそうという野心家が持つ松明と解釈される。

ジョンソン博士は、かの有名な辞書において、愛国心は悪党の最後の拠り所と定義されている。この啓発的だがやや劣る辞書編纂者に与えられるべき敬意は払いつつも、わたくしめとしては「最初の拠り所」ではないかと提案する次第。

上記のとおり、ビアスは「愛国心は悪党の最後のよりどころ」の引用元をサミュエル・ジョンソン博士の「かの有名な辞書」としていますが、じつはこれは間違いで、正解は、ジェイムズ・ボズウェルの『サミュエル・ジョンソン伝』1775年4月7日のエントリーです。

Patriotism having become one of our topicks, Johnson suddenly uttered, in a strong determined tone, an apophthegm, at which many will start: 'Patriotism is the last refuge of a scoundrel[1035].' But let it be considered, that he did not mean a real and generous love of our country, but that pretended patriotism which so many, in all ages and countries, have made a cloak for self-interest. I maintain, that certainly all patriots were not scoundrels. Being urged, (not by Johnson) to name one exception, I mentioned an eminent person[1036], whom we all greatly admired. JOHNSON. 'Sir, I do not say that he is not honest; but we have no reason to conclude from his political conduct that he is honest. Were he to accept of a place from this ministry, he would lose that character of firmness which he has, and might be turned out of his place in a year. This ministry is neither stable[1037], nor grateful to their friends, as Sir Robert Walpole was, so that he may think it more for his interest to take his chance of his party coming in.'

Life of Johnson, Volume 2 by James Boswell - Project Gutenberg から引用。

どうやら、愛国者はすべてダメだと言いたいわけではなくて、個人的な利益を隠して騙られる見せかけの愛国心 (pretended patriotism) にダメを出しているようです。最後あたりの自党の利益を云々というフレーズを見ながら、なんとも微妙な気持ちになったり。これ、200年以上前の文章なんですけどね……。

注釈を少し補っておきますと、[1036] の eminent person はエドマンド・バークだそうです。[1037] の「現政権」はノース卿(フレデリック・ノース)内閣。オレの頭の中ではノース卿と言えばアメリカ独立革命時のイギリスのトップですが、それより年代が前なのでそこは無関係と思われます。

ウィキペディア連携

今回も、ほぼそれのみです。「パンデモニウム」がウィキペディアになかったのはちょっと驚きましたが。少し言い回しをいじった部分、用語を変えた部分はあります。

2012/10/12

ブクログの青空文庫対応への対応

ウェブ本棚『ブクログ』青空文庫が登録できるようになったそうで。その結果、オレの翻訳のうち青空文庫に提供している5品も、ブクログの本棚にならべることができるようになっています。

そこで、それぞれの xhtml 版の上部にブクログへのリンクをつけてみました。いまのところ、本棚に入れる / レビューを書くといったアクションを取っている方はおられませんので、どれでも「1げっと!」できます。自分でとるのはさすがに気恥ずかしいので、どなたかとってやってください。レビューも、甘口も辛口もお好みの味付けでどうぞ。

とまあ、なんだかオレの翻訳の宣伝主体になってしまいますが、青空文庫全体として考えても、この試みはとても面白い。いろんな人が青空文庫のこのテキストを読んだよという証、言うなれば「手垢」や「書き込み跡」がここにいっぱい残っていってくれれば、青空文庫の実在感の薄さというか、どんな人がどんな気持ちで読んでるの?というつかめなさに、すこしずつ厚みがましていくんじゃないか、と期待しているのです。

もちろん、ネット上のあちらこちらに「青空文庫でこんな本を読みましたよ」という話はちらほら見かけるのですが、読書に特化したサイトでリアル本と並列して語られるのは重みがまるでちがう。コンテンツが充実してくるまでしばらく時間はかかるでしょうが、やがては青空文庫読書ガイドとしても非常に役にたつ存在になっていくんじゃないかと、期待をしてます。

期待ばかりしていても勝手な!という感じなのでなにかにレビューを書こうかと思ったわけですが……さて、なににしようかな。あえて村山槐多いっちゃう?とか思いながら、でもこの人の書いたものだと詩か童話『五つの夢』が抜群の出来なんだけど登録がないという……。いろいろ読み返しながら考えたいと思います。

2012/10/07

読んだ - 2012年9月

先月読んだ本の話など。

小説では『荊の城』はまず佳作どころ。万人にはおすすめしないけれど。『銀河ヒッチハイク・ガイド』も、面白いけれど万人にはすすめられないよね。『ベンジャミン・バトン』にいたってはさらに。ちょっとチョイスが偏りすぎている感じ。10月は日本の小説も読もう。

小説以外では、『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』はまず面白かった。『これからの「正義」の話をしよう』はテーマがちょっと重いし日本ではなかなか目にしないトピックも多いし、軽い気持ちで読むとついてけない。そのうちまた読む。

漫画はほかにもいろいろ読んだはずなんだけど印象的だったもので『となりの関くん』。3巻まで出ているようなのでじわじわそろえながら読んでいきたいと思います。

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

生まれた瞬間から70歳、ふつうに言葉もしゃべれてしまうベンジャミンが、年を重ねるごとにどんどん若返っていくという数奇な一生をおくる様子を描く。作者フィッツジェラルドいわく「マーク・トウェインの思いつき『残念ながら人生というものは、最良の瞬間が最初の最初にやってきて、最悪の瞬間が最後の最後にやってくるものらしい』を逆転させてみようという実験的作品」。

2009年の映画版は基本シリアスに描いているけれど、原作はユーモアが強め。しょっぱなでは老人なのにベビーベッドに押し込まれたり。最後らへんでは真面目に人生を送れと息子から怒られたり。むしろ、軽い読み物として楽しめるものと思います。深読みは、したい人はどうぞっていう感じ。

翻訳は永山篤一訳(角川文庫)、都甲幸治訳(イースト・プレス)の2種類が出ているみたい。個人的な趣味で言うと都甲幸治訳の方が好みかな。「ベンジャミン・バトン」一作しか収録されていない小さな本ですが、ベンジャミンのどんどん若返っていくイラストをはじめ、本としてのつくりが素敵。ギフトにも使えそうなくらいですが内容的に不向きか。

荊の城

あるところに莫大な財産を相続することになっているお嬢様がおりました。ただしお嬢様が結婚するまではその財産は自由にできません。そこに目をつけたハンサムな紳士風の詐欺師が、スリの少女と手を組み、お嬢様を罠にはめてがっぽりもうけようぜという物語……少なくともスタート時点では。

はじめて読む作家さん+訳者さん。ディケンズをベースにしたんだろうと思われるちょっと重たいスタイルが少々苦手で途中一回投げ出しかけたものの、第一部を読み終えたあたりでがぜん面白くなってきてその後一気読み。

ま、要はみんながみんなで騙しあい的な忙しい小説なんですが、スリの少女・スーザンのかわいくなさが可愛らしくてちょっと不思議な感じ。あとお嬢様が最後に、え~と、そう、小説家として自立して、ある種の白い花を咲かせるという展開にわあ……!と思ったり。好きな人はたぶんもっと好きな展開だと思います。

あとがきにつながりキーワードがあれこれ書いてありましたが、オレの場合、「奇妙な依頼人」に登場する「マーシャルシー監獄」でピンときました。

銀河ヒッチハイク・ガイド

開始数ページで地球がこなごなになるところが主人公(地球人)とそのお友達(非地球人)だけはたまたま通りがかった宇宙船にヒッチハイクで乗り込んで難をのがれたのはいいけれどその宇宙船の主が非寛容な宇宙人で宇宙空間に放り捨てられたら別の宇宙船にぐうぜん拾い上げられて……っていう流れの、荒唐無稽いきあたりばったり物語。

まだ読んでなかったの?と言われそうですが、ええ。「面白から!」と言われて読んだ本はたいがいピンとこないことが多いのですけれど、これはそうでもなく、純粋に面白かった。出だしの数段落にすばらしいユーモアのセンスが凝縮されてます。

ノリとイキオイで話が進んでいくので、じっくり静かに読書を楽しみたいときのセレクトには向きません。かといって、ある程度集中できる環境でないと話についていくのに一苦労しそうな感じも。ふさわしい環境のむずかしい本かもしれない。

これからの「正義」の話をしよう

お勉強ということで。「正義」を、(1) 功利主義 (2) 自由市場主義 (3) 美徳の奨励 の3つの観点から考える。バランスよくいろんな時代のいろんな人たちの視点を紹介してくれるのは二重丸。いろいろ勉強になりましたが、個人的には、南北戦争の召集命令と替え玉の逸話が『グレイト・ギャツビー』との絡みで非常に有益でした(ピンボケ)。

裁判長! ここは懲役4年でどうすか

ちょっと前(だいぶ前?)にテレビでドラマ化されたのをなんとなく見ていた。

ノンフィクション。法曹界とは無縁のライターさんがいろんな裁判を傍聴した記録。やれ正義だ社会悪だと大きく振りかぶるシリアスなものではなく、かといって、あらあら聞きました奥さん的なモスキートなものでもない、観察日記的な感じが心地よい。オレ個人的には裁判所とか行ったことがありませんので、へえ、こんな感じなんだ、と面白く読みました。

となりの関くん

「私の隣の席の関くんは授業中いつも何かして遊んでいる」

奥さんチョイス。けらけら笑いながら読みました。舞台は日本の高校。授業中にいつも遊んでいる関くんを、その隣の真面目に授業を受けたい横井さんが観察するという一話完結スタイルの物語で、話の大筋は毎回同じなんですが、いやいや、展開のさせ方が毎度上手。手札のおおいことおおいこと。

個人的には「2時間目」の将棋の話がいちばん面白かった。ルールを無視して関くんによって作られる物語(金が王を裏切って恐怖政治を……)が傑作。だいたい学園モノには自動的に減点が入る学校ギライのわたくしめですが、それでもこれは人に薦められる、という感じです。

2012/10/05

『ゼンダ城の虜』第12章、公開

『ゼンダ城の虜』第12章、公開です。ぼちぼち盛り上がってまいります。

え~、なによりもまず、ルパート・ヘンツァウ登場ですね。11章公開時も似たようなことを書きましたが、読者から、作者から、そして作中人物からの愛を一身に集めたであろうキャラクター。かくいうオレもまたこのキャラを愛してやみませんということで、訳出にあたっては、かっこよく、とにかくかっこよく! という補正をかけていきたいと思います。

私に言わせれば、男たるもの、もし悪役に立ち回る必要があるのなら、スマートな悪役を目指したい。よって私は、ルパート・ヘンツァウのほうに、木で鼻をくくったようなかれの同輩たちよりも、好感を抱いた。どうせ罪なら、ア・ラ・モードに、スタイリッシュに犯したからといって、その軽重が左右されるものでもあるまい。

ということですし。

なお、Hentzau に「ヘンツァウ」という表記をあてたのは Strelsau を「ストレルサウ」としたのにあわせたもので、「ストレルサウ」は Breslau を「ブレスラウ」と表記する慣例に倣ってのものです。ほとんどの先行訳は「ヘンツォ」となっていますが、これに対して間違いであるとか主張するつもりはありませんのであしからず。

固有名詞の表記については、前回 Sapt を「ザプト」に変更しましたが、今回も Elfburg を「エルフバーグ」から「エルフブルク」に変更します。ドイツ風ということで。「風」ね。「アルフブルクでしょ」と言われればそうなのかな……という気持ちのゆれを感じますが、そこはまあ、ドイツ風といっても、この小説には Black Michael というどうしょうもない固有名詞もありますし、究極的にはこだわれない。じゃあもう英語読みでいいじゃんという気持ちもわきますが、フリッツ・ヴォン・ターレンハイムとは書きたくない、と。まあ、結論としては好みの問題なので、本当は読者に選んでもらうのがいいんじゃないか、という思いもなくはなく。文書の構造化を推し進めれば、スクリプトひとつで読者の好みを反映する機能をつけられないこともないわけですが……。

ストーリーの話に戻りましょう。第2章以来の登場となる「宿屋の娘」。この子も個人的にはけっこう好きなキャラクター。ホープのキャラ作りの巧さというものか。もっとも、第2章のときは姉妹だったはずなのにその辺りの設定をどうやら忘れてたんじゃないかと思われるのはご愛嬌。感じからすると、妹のほうっぽいですけど。

それから、最後のほうにほぼ名前だけ登場するベルネンシュタイン。『ゼンダ城の虜』では以後出番なし(だったはず)ですが、続編『ヘンツァウ伯ルパート』ではレギュラーメンバーに昇格します。

次の13章は、ラッセンディル対ルパートの会話の応酬がみどころ。今月中にはご高覧いただけるんじゃないかと予定しています。

2012/09/21

『ゼンダ城の虜』第11章公開。

『ゼンダ城の虜』第11章を公開しました。これでやっと残り半分。

11章は、ざっくり言うと、フラビアといちゃついて、ストラケンツ元帥と暑苦しい対談をして、フラビアといちゃつくという感じの流れ。フラビア姫がとってもうっとおしい章ですが、ここさえ乗り切ればしばらく出てこないのでがんばって付き合ってあげました。後半とかもう甘い台詞ばっかりで歯が浮くどころか虫歯になりそう。

一方、第5章以来の登場になるストラケンツ元帥との会話はけっこう好きなシーンの一つ。気障な台詞回しの多いこの小説の中でも、ここはかっこいい台詞が多いんじゃないかと思います。ベタですが「そいつを私の墓碑銘にしてもらおう」とか。なるべくかっこよく響くように、プラス、元帥が本物・偽者の件をこの時点で悟ったかどうか判断がつきかねるような訳を心がけてみました。先行訳とはちょっとちがう雰囲気になったかと思います。

あ、それからここまで「サプト」大佐にしてきましたが、「ザプト」大佐に変更します。音写の正確さというやつにはあんまり興味がないんですが、濁音が入ったほうが強そう!なので。

次章はついに、『ゼンダ城の虜』の影の主人公、ルパート・ヘンツァウが登場します。いやあ、これが楽しみで翻訳してたんだけど、ようやくですよ。まあ、12章は顔見せという感じで、本格的に登場するのはその次の13章なんですけれども。

ところで、本文とは関係がありませんが、ナビゲーションのつくりを変えました。そして11章のみ、「原文を表示する」で対訳状態にできます。対訳表示にできると、後でチェックするときに楽なんだよね~。以降の章ではこの機能は継続していきたいと思います。

関連記事

2012/09/18

『悪魔の辞典』からウィキペディアへ U-Z 編。

古い友達と酒を飲みながら、「あの『悪魔の辞典』はお前の文体だよ」と言われ、そうかなあと首をひねる。まあ、かれはこれの翻訳をする前からの知り合いなので別としても、やっぱりふつうに見て「こんなものの翻訳をやっているくらいなのだからこいつは皮肉屋に違いない」と思われているんだろうか。

そんなことないのですけどね。たぶん。オレが信じるかぎりでは

本題。表題のとおり、U-Z の項目につきウィキペディアへのリンクをセットしました。まだまだリンクを入れるべきところがありますが、あせらずあわてず思い出したようにじっくりいきたいと思ってます。

あとはとくに触ったところはないのですが、逆に言うと間違いであろう部分を放置したところもあり……たとえば UBIQUITY [遍在], WALL STREET [ウォール街], ZEUS [ゼウス] は、たぶん間違っていると思います。

それから、今回、『悪魔の辞典』の全ページに対して形式あわせのための更新をかけました。各ページに、そのページにある見出し語の一覧が表示されるはずです。

じつは『悪魔の辞典』は、公開当時から、URL に #見出し語(英語)をつければ個別にリンクがはれるようになっているのですが、どこにもそんな説明がないし、当たり前ですがどなたもご利用になっていないようです。こうしておけば気づく人は気づくかな、と。

で、この変更はあっというまにできたんですが、これに伴うというか関連するというかの修正がもうたいへん。実はもともとが html 4.0 以前に作り始めたページなので、a name="" が大量にあるというレガシーモード。単純に id に変えてというわけにはいかなかったので(すでに dt id="" で互換性をとっていた)テキストエディタの置換機能を使ってつぶしたわけですが、正規表現が苦手なこともあってなかなかうまくことが運ばず。なんか変なことになっているページがあったら教えてください。

でもこれで今後更新するのは楽になったと信じたい。

でもこれ、最終的にはデータベース化したほうがいろいろ面白く使えるかも。もしするなら、こんな設計だろうか。

  • 見出し語(英語)
  • 見出し語(日本語)
  • 見出し語(ふりがな)
  • 品詞
  • 定義文(英語)
  • 定義文(日本語)

TZE-TZE FLY みたいに見出し語が複数ついてるやつをどうするかは、考えておかないとまずいことが起きそう? あと I みたいなのをどうするか、工夫がいりそう。

2012/09/15

『悪魔の辞典』 A項修正。

なんども繰り返すようだけれども、やはり『悪魔の辞典』は読めてない。この本との関係は、性格は好きなんだけど何考えてるのかよくわからない友達(恋人でもいいけど)とのお付き合いみたいになりつつある。

今回の更新はウィキペディアへのリンクをセットするのが主要な目的だったはずなのにまたテキストをいじりはじめる諦めの悪さ。でも分からないものはやっぱりわからないなあ。AIM [目的] とか。

細かいのははしょって代表的な変更点はこんな感じ。

ABDICATION [退位]

韻文を訳しなおし。「:」の意味合いをちゃんと汲み取れていないっぽいので。

ところで、角川文庫版のこのエントリ、イサベルの部分に訳注が入っていて、「スペインを統一した女王、コロンブスの後援者、1474-1504」と、イサベル1世を指定してあるのだけど、それは違うような気がする。気になったので "The Unabridged Devil's Dictionary" の注釈を調べると、こちらはイサベル2世。リンクは2世にしておきました。

ABRACADABRA [アブラカダブラ]

韻文。押韻無視でだらっと訳出しました。散文にしてしまってもビアス一流の寓話として読める出来ですし。訳もわりとちゃんと出来たんじゃないかと思います。と、恐る恐る。ちなみに Google 先生に質問すると筒井訳が出ますが、いやあ、これはうまいわ、と思いました。いいかげん『悪魔の辞典』を買うのはやめようと思っていたんだけど、まずい、欲しくなってきた。

ABSENT [不在の]

第4文節 "superseded in the consideration and affection of another" を「親切と思いやりに追い立てられた」ではなく「話題性を失った」に。誤訳を修正して誤訳になった可能性大ですしそもそもかなり強引訳です。つか、"supersede" ってこんな使い方ができるの? とか、"consideration" には "the" がつくのに "affection" に "the" がつかないのはなぜ? とか、正直よくわかってないです。

ちなみに、岩波文庫版はこの文節だけカットしてやがります。ズルイ。

韻文も訳出しておきました。押韻無視。

ABSTAINER [節制家]

韻文訳押韻無視。「節制家」という見出し語が使えていない挙句に面白みが伝わりづらいダメ訳……。

ACADEME [アカデメイア]

見出し語を「アカドューム」から「アカデメイア」に。ウィキペディアにあわせた。

ADVICE [忠告]

「最小流通貨幣」から「はした金」に。シンプル志向。

補足的に韻文を押韻無視で訳出しましたが、これまたうまくいった気がしない。

AIM [目標]

見出し語を「目的」から「目標」へ。「ターゲット」でもいいかもしれません。AIM に「まと」の意味があるのを韻文で利用されているため。

……とオレは信じるのだけど、角川文庫版では韻文の最後の一行 "The fact is -- I have fired." が「実は首になったんだもの」になっていて、う~ん、う~ん、う~ん……。そう解釈するには、"I have been fired." じゃないといけなくないかなあ?

まあ、結論としてはこのエントリに関しては散文も韻文も自信ゼロなわけだけど。

ALLEGIANCE [忠実]

韻文訳出。うまくできてるとは思わない。でも散文が存在しない項目なので韻文を無視するとさびしいので仕方なく。

ALLIGATOR [アリゲーター]

打ち消し線を使ったトリックを除去。わかりにくくなったかな。

"West" が固有名詞なので「西欧」に。でもこれがまた間違いの可能性はある。「西部」ではないと思うけど。

ちなみに最後らへんの「ノコギリアン (sawrian)」は、鰐の背中のぎざぎざを「ノコギリ (saw)」に見立ててそこから「トカゲの仲間 (saurian)」に戻すというアクロバットをしたいんだと信じてる。原文は "From the notches on his back the alligator is called a sawrian." とりあえず英語版ウィキペディアの sauria にリンクして手がかりになればと祈るけれど、でも率直に胸のうちをを打ち明けるとさ、おいビアス、つまんないダジャレで喜んでんじゃねえよ、という気分。かれとつきあっているとときどきそういう気分になる。

なお、 大勘違いの可能性はもちろんあります。

ALTAR [祭壇・供犠台]

"the small intestine" を「小さなはらわた」から「小腸」へ。個人的にはかならずしも小腸ではないと思うのですが、まあ字義通りということで。

韻文を訳出。解釈まじりの訳なので、読み方を勘違いしていればいきおい誤訳となるわけですが、さあどうだ。

ARENA [闘技場]

"rat-pit" ということばがいまいちよくわかっていなかったのだけど、ウィキペディア(英語版)で調べるとなんと画像つきで解説 Rat-baiting が。「鼠穴」から「ラットピット」に変更しました。リンク先は英語版のウィキペディアだけど、絵でなんとなくわかると思う。

これもまた繰り返しの繰言だけど、これの翻訳をしていたころにウィキペディアがあったらどれだけマシな状態にできていたことか。

あとは、record を「記録」とする場合は不可算名詞らしいので、「過去」に変えてみました。ちょっと無理がある? まあ、どちらにしても言いたいことは変わらないけれど。

ASS [ロバ(愚鈍の象徴)]

ウィキペディアさまさま。リンクのない固有名詞は、ビアスの捏造と思ってもらって大丈夫なはず……と言いたいけれど、そこの見切りがむずかしいのがまたビアス。Capasia なんかは何かありそうな気がするけれど……。

「『七人の眠れる人』」になっていたのは初歩の誤訳なのでこそっと直す。

AVERNUS [アヴェルヌス湖]

日本語になっている感じがしなかったので訳しなおし。

2012/09/09

[ER] アクセス解析を眺めながら

青空文庫ではテキスト版へのアクセスがhtml版へのアクセスをはるかに凌駕するという妙な事態が生じているらしい。原因は不明とのことで。

もちろん、人間がふつうのウェブブラウザを使っていきなりテキスト版に大量アクセスしはじめるわけはないので、どっかのアプリケーションなりサービスなり経由のアクセスなんだろうけど、それにしても桁が多すぎ。

機械的なスパムまがいのアクセスかというと、たぶんそうじゃない感じ。1位は夏目漱石『こころ』31,158件に対し、100位の芥川竜之介『芋粥』は1,968件なので、まんべんなく無差別にアクセスしてきたわけではなさそう。

あてずっぽうに近いものがあるけれど、i読書という iPhone 用のアプリが8/15から無料で公開されているのが要因じゃないかと思う。仕様を見るかぎりでは、テキスト版にアクセスしてこざるをえなさそうだし。しかも主要なインデックスはアクセスランキングっぽいので、上位にあるものほどアクセスが増えるだろうし。

自分ちで同じことがおきてるかどうかというと、残念ながらテキスト版へのアクセスは把握していないのでわかりません。上の理屈で行くと、たぶん影響はないだろうと思うけれど。

アクセス解析といえば、実は去年の7月くらいにこっそり Google Analytics で解析するのに必要なコードを主要なページに埋め込んでいて、ざっと一年分くらいのデータがたまってます。アクセス解析はそれまでやっていなかったのだけど、数字として見せられると、本人のいい加減な予測がぜんぜん丸外れの傾向が浮き彫りに。

まずびっくりしたのは、月間1万ページビュー/4000ユーザー前後のアクセスがあったこと。正直、もっとずっと少ないと思ってた。リアル雑誌に掲載された「酒とUOの日々」でも3ヶ月で16,000ヒットくらいだったはずだし、それを考えると、まったく手入れされていないのにこれだけのアクセスが出るというのだから、オンラインゲーム速報というすぐ廃れる情報の発信をやめて今の形に移行した狙いは、ある程度正解だったと言えなくもない。

で、このアクセスがどこから生じているかというのも、まったく予想外というか。ほとんど青空文庫かプロジェクト杉田玄白だろうと思っていたら、7割近くが検索エンジンから直接アクセスしてお見えなのですね。で、青空文庫から 500 ページビューくらい。プロジェクト杉田玄白で 100 ページビューくらい。ここで面白いのは、青空文庫からのアクセスはほぼ1人1ページですが、玄白からのアクセスは複数のページにアクセスする傾向が強いこと。インターフェースのつくりの差だと思われます。

そしてアクセスしてくるコンテンツのランキングがまたびっくり。1位はだいたい毎月『黒の剣のほとんどすべて』がゲットしてしまう。1990年代のゲームですよ? 最近 PlayStation のレトロゲームアーカイブ的なところで買えるみたいだけど、それにしても毎月 1,000 とか 2,000 とかアクセスがあるのは不思議な感じ。

『黒の剣』の次がほぼほぼオー・ヘンリー『二十年後』というのも、少なくとも自分としては予想外。やはりネット上では短い話のほうが好まれるということかもしれません。その次にくるのがビアス『悪魔の辞典』、フィッツジラルド『グレイト・ギャツビー』あたり。この3強、順番はときどき入れ替わりますが、それぞれ800-1,200くらいのアクセスが出ます(html版)。

先月にかぎった話をすれば、オー・ヘンリー『警官と賛美歌』にアクセスが集中し 1,500 とだいたいいつもの5倍くらいのアクセスを稼ぎ、『黒の剣』を抑えて堂々の一位。どうやら学生さんたちの仕業のようで。おなじような経緯か『心と手』も 1,000 弱といつもより多め。じゃあオー・ヘンリー全部かというと、そうでもないのがまた需要の読みづらさというか。

そしてここのところ気になっているのが、モバイル率の上昇ペース。データをとりはじめた去年8月はモバイル端末でのアクセスは23%くらいなんだけど、先月は35%くらいにまで増えている。世の中はどうやらかなりのペースでスマートフォン化が進んでいるらしい。どうも携帯電話というものに興味がわかない身としてはそこに数万円/1回+数千円/月を投入するのはどうも腰が引けるというか……。さすがに、いまだにカメラすらついていない携帯を使っているのはどうかとは思い始めたのだけど、でもたぶんまだまだ様子見を続けそう。

ところで、パブーでやってる例の暴挙ですが、7月末に1件売りがあがっておおいにあわてふためいて以降、売れておりません。いまのところ、あっちの閲覧数は7月下旬からの累計で400くらい。売りがあがったのは本当にうれしくてなんというかかえって申し訳ない気分になりぎみなのだけど、パブーは「印税」が3000円に達しないと引き出せないので、あと1,300円売り上げないと埋蔵金状態。まあ、自分で1,300円の売りを立ててやれば、差額1,700円を引き出せるし、飽きて忘れてしまう前にそうしたほうがよいのだけど、この払い出し金額に達していない額のパブー全体での総計って、それなりに大きいんじゃという気もしなくはない。

2012/09/06

[ER] 旧がらくた玩具とゲームレビューというもののありようについての自戒

旧サイトで「がらくた玩具」というコーナー名のもとに掲載していたゲームレビューをこのブログに移動していくことにしました。

1998年 - 2000年のコンテンツで、しかもその当時ですら新作を扱っていなかったのでネタとしてはほこりまみれ。なつかしさ満載です。そのまま Not Found の墓場に埋葬してしまおうかと思ったんですが、見に来られる方が月200-300人ほどいらっしゃるようなので、コンテンツ自体は保存しておくことにします。新サイトではなくブログを移動先に選んだのは、新サイトの容量の節約のため。基本容量 20MB までなんですが、『グリーン・ゲイブルズのアン』に1MB以上とられてしまってちょっと不安になったのです……。

ブログ側だと容量は比較的余裕があるんですが、すべてを移動するかどうかはまだ悩んでいて……。『魔女たちの眠り』とか『ディアブロ』とか、あきらかに出来の悪いものはいいかなあと思ったりもするんですけどね。とりあえず、今回再録したのは以下の14件:

アクセス数が多いと思われるもの、資料的な存在意義があると思われるものからピックアップしました。アクセスカウントは実はしていませんので、検索クエリやリファから判断するところですけれど。検索にかかりやすいのは、PC9801時代のゲームのようです。競合する情報がかなり少ないからでしょうね。

『マザー2』について

この中で『マザー2』についてはとくに一言。このレビューについては諸方面から大きな批判をいただきました。もちろん、書いた当初からそういう反応があることはある程度予想していたんですが、2ちゃんねるまで飛び火して掲示板が荒れるとは思わなかったので、まあ、そのあたりいい思い出と教訓でした。

そういうわけで再録を見送ろうかとも思ったんですが、今読み直しても、書いた内容自体は間違っていない思いましたので、あえて選んでいます。

ただ「書いた内容自体は間違っていない」のですが、やはりレビュアーとしての姿勢に間違いがあると言われれば否定のできないところで。うん。フェアじゃないんですよね、このレビュー。『マザー1』はとても好きなゲームだったので、その続編に期待するところがあまりにも大きかった。だから、嫌いな要素が複数入り込んできたときに、軽く流すことができず、そしてラストの「いのる」を目にして、すさまじくがっかりしたわけで。

前作はあんなにすばらしい物語だったのに、と。

だから、オレがすべきことは、初代『マザー』のレビューであって、わざわざ『マザー2』を選んでレビューすべきではなかった。駄目なものに駄目というだけではなんにもならない。そもそもゲームレビューは、楽しさを伝えるべきものじゃないか。という初歩の初歩がわかっていなかった。

面白さを人に伝えるというのはとてもむずかしく、ついつい面白くなさを人に伝えるという、自己満足度の高い行為に走りたくなることが多々あります。やりたくない企画のあら捜し、とかね。でもそんなものを時間をかけて書き上げたって建設的でない。

その反省をこめて、再録することにしました。繰り返しますが、内容的には間違っていると思いませんので、『マザー2』のプレイをオススメはしません。ただ、ぜひ初代『マザー』はプレイしてみて欲しい(機会があれば……)と思います。

今後……?

このコーナーの最終ポストは2002年9月『ファイナルファンタジー10』のレビューでした。その後、レビューできるくらいプレイしたゲームがどれくらいあるだろうかと振り返りますと、どうもあんまり多くない:

  • 戦国無双 [PS2]
  • 真・三国無双4 [PS2]
  • 無双OROCHI [PS2]
  • カルドセプト [PS2]
  • ドラゴンクエスト8 [PS2]
  • ファイナルファンタジー10-2 [PS2]
  • モンスターハンター2 [PS2]
  • モンスターハンターフロンティア [PC]

……これくらいじゃないかなあ。ハードも PS2 と Wii しか持ってないし(つまり、Wii にいたっては持ってるけどやりこんだゲームがないという……)。なので、このブログにゲームレビューが再登場する可能性は低そうです。

2012/08/29

『悪魔の辞典』 S項を修正。

Satyr の項目が間違っていることに気づいてしまったので、これを直すと同時にいろいろ手を出してしまいました。いつものパターン。

ひとつ。いろいろな単語にウィキペディアへのリンクをセットしてみました。破線のアンダーラインが出ている単語にはウィキペディアへのリンクがしこまれています。日本語版に項目がなければ英語版にリンクしていますが、どちらにリンクしているかを見た目に判断できないのは改善が必要。それぞれ class 属性が "wikipedia" "wikipedia_notja" でわけてあるので実装はむずかしくないのですが、さてどんなスタイルがいいのかが問題で、あんまりいいアイデアが思いつかない。

テキスト自体は、ちょこっとずつ言い回しを調整した部分は割愛するとして、大きな修正は3箇所。

Sacrament

見出し語を「秘蹟」から「サクラメント」へ。以前もどなたかに「『秘蹟』はローマ・カトリック用語だから文脈上不適切ですよ」と指摘された気がしなくもないのですが、あまりカタカナ言葉を見出し語に入れたくないなあという気分があってそのままに(オレの記憶が確かならば)。今回、ウィキペディアにリンクするという方法を導入したのでそのへん気にしなくていいかな、ということで「サクラメント」に変更します。ウィキペディアの記事内容でビアスの言いたいことはフォローできてしまうし。

Satyr [サテュロス]

n. 数少ない、ヘブライ人に認識されているギリシャ神話の登場人物(レビ記17:7)。最初は、バッカスにだらしなく仕える放蕩なコミュニティのメンバーとして登場してくるサテュロスも、多くの変革と改善を実行した。しばしば、ローマ神話が創り出したファウヌスと混同される。サテュロスと比べると、ファウヌスは人というより山羊に近い。

……を、

n. 数少ない、ヘブライ人に認識されているギリシャ神話の登場人物(レビ記17:7)。はじめはディオニューソスにだらしなく仕える放蕩なコミュニティのメンバーとして登場するサテュロスだが、多くの改変と改善がほどこされていった。稀ならず混同される存在として、後代にローマ神話がやや善良な存在として創作したファウヌスがあり、こちらは人よりもヤギに近い風体をしている。

へ。"The satyr was at first a member of the dissolute community acknowledging a loose allegiance with Dionysius, but underwent many transformations and improvements." の underwent の解釈がまったく間違っているはず。サチュロスがトランスフォームとインプルーブされてファウヌスになったところが「人よりもヤギに近い」という皮肉なんだと今にして思う。

だけど、文章としてはもうちょっと練りが必要な感じで、いまいち満足はしていない。

Saw [ことわざ]

第4例文、"Better late than before anybody has invited you." を「言われぬあやまち矯(た)めるにあたわず。」から「遅くとも、呼ばれもせぬのに押しかけるよりまし。」に。なんでこんな訳を当てたんだろう? なんか恣意的にやっている臭いがするけれど、思い出せないので標準的に。

2012/08/13

『グリーン・ゲイブルズのアン』(osawa訳)公開

原作について

カナダの小説家、ルーシー・モード・モンゴメリの代表作です。『赤毛のアン』と言われれば、まずたいていの人が聞いたことくらいはあると思います。

ここでしっかり解説できるといいんですが、実はオレも語ることができるほどに詳しくなく……。いい加減な解説を書くよりもまだましかと思いますので、ウィキペディアの該当記事にリンクしておきます。参考まで。

モンゴメリは1942年に亡くなっていますので、日本での著作権は2003年頃に失効しました。

翻訳について

osawa さんが『物語倶楽部』というサイトで公開した全訳です。プロジェクト杉田玄白方式にしたがうものとして公開されていましたが、2004年以降にサイトへのアクセスができなくなっています。

ただし、Wayback Machine にアーカイブがありますので、今もこのサイトを見ようと思えば見ることは可能です。これを利用して「発掘」する作業を行われた方も、すでにお二人ほどいらっしゃいます。

このたび、オレもまた同じように「発掘」作業を行いました。当初は、章ごとに分かれていたファイルを1個にまとめて、マークアップをきれいにして、縦書き用に数字が漢数字になったテキストファイルを作る。それで終わり、というつもりだったんですが……。

つい校正してしまう……

ところが、回復作業中にうっかり読みはまってしまい、そうしてじっくり読んでみるとどうやらそれなりの誤入力・誤変換が見受けられるので、直してあげたくなってしまい。せっせと直していくうちに、こんどは漢字にするしないというようなスタイル的な部分も手をいれたくなってしまい……。

おかげさまで公開にいたるまでの時間がずいぶんかかってしまいましたが、品質の向上に一定の貢献をすることができたのではないかと思います。修正履歴(1,000件を超えてる……ファイルサイズも700kbと大きいなあ)も公開しておきますが、誤字脱字の類をのぞいた、主な校正内容を列挙しますと:

翻訳としての修正

基本的には原文との照合は行っていないのでたまたま気づいた部分に限定されますが……。

(a) 21章の章題が目次で「妙な味付け」、本文で「味な門出」と不統一だったのを、原文確認の上 (A New Departure in Flavorings)、「妙な味付け」に統一しました。「新感覚の風味を拓く」なんていう手もありそうではありますね。

(b) 31章で "Anne shivered." という一文が抜けていたので、無難なところで「アンは身を震わせた」と補いました。

(c) 37章に、36章のマシューの台詞の引用がありますが、訳語が統一されていなかったため、36章のものに統一しました。

漢字

このあたり、個人の趣味もあるのでなんともむずかしいところですが、「無い」「遂に」「未だ」はほぼ全面的に、「居る」「良い」は8割方(マシューの台詞や「良い子」「良かった」などは残しています)をひらがなにして、文章の印象を少しやわらかく変えています。

逆に、まぜ書きされていた単語を漢字になおしたりしたパターンもあります。「憂うつ」「まい進」など。

また、難読かな、と思われる単語にルビを振りました。ルビを振った中で、38章の「懐く」は文脈上「なつく」と読むべきではなかろうと思い、「いだく」というルビを振りましたが、もしかすると訳者の意図せざるところかもしれません。

約物

「--」を「――」(2倍のダッシュ)に、「...」を「……」(3点リーダ)に、とか。閉じ括弧の前の句点は、なしに統一しました。あと半角スペースなんかをちょこちょこ調整してたりとか。

なお、この部分の修正はほとんど校正履歴に出ていません。あしからず。

「メモ」の扱いについて

この翻訳には、osawa さんがつけた膨大な訳者のメモが伴っています。osawa さん自身、

AGGを訳す時に気になったことや分からなかったこと、 引用や引喩の確認・調査、雑多な感想についてメモしています。 AGGの日本語訳としては既にたくさんの名訳が安く容易に手に入るので、 良かれ悪しかれこのメモがこのサイトの売りではないかと思います。

としていらっしゃるのですが、このメモ書きはライセンスが不明なため安易に引っ張ってこれません……。たぶん問題はないと思うのですけど、とりあえず今回は見送ることにしました。

Katokt さんもそうなんだけど、「本翻訳は……」でライセンスを切られると翻訳以外の部分が微妙になってしまうという罠が。

後日補足

2012/8/17: 「約物」中で「読点」としていたのを「句点」に改めました。間違いです。

2012/08/09

『ミルヴァートン』不具合の調整

文字コードがおかしいのか、表示が乱れる現象が発生していましたのでとりあえず差し替えてみました。いつかもこれが発生したのですが強制リフレッシュで直ったり直らなかったりで良くわからない状態。まあ、とりあえずこれで様子見ですね。

2012/08/03

『グレイト・ギャツビー』修正、あるいは「オールド・スポート」を日本語で表現する挑戦。

しつこく続く修正の一環。今回はギャツビーが口癖のように言う old sport という呼びかけに対する訳語を変更しました。

村上春樹訳では「オールド・スポート」とカタカナ化され、「あとがき」で翻訳不可能であるという旨のことが述べられていて、正直、一読者兼一訳者としては「ええ~!」という、がっかりぎみの感想をいだいたこともあり。というか、そのあとがきを読んで買うのをやめたんですけど、う~ん、これに関しては「正しい」翻訳なんてありえないことは判っているだけに、なんらかの挑戦というかひらめきを見せて欲しかったな、せっかくの機会をもったいないな、と思うわけです。

んで小川高義訳(光文社)は訳出をさけたらしいですが(申し訳ないのだけど、未確認)、まあ、これはこれで一つのやり方かなあと。でも、やっぱり、なにか、挑戦して欲しいよね、というのが正直な気持ち。

といいつつも、翻って自分を見ますと「親友」を当てていたわけですが、これは、野崎孝訳をそのまま流用しているわけで、まあ、結局のところ自分だって機会をなげうっていることに違いはなく。いや、言い訳をすると、サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳)でのホールデンの台詞と齟齬をきたさないように、という遠慮があったわけですが、『ライ麦』もちがう訳が出ましたし、そんじゃあひとつ果敢に挑戦してやろうじゃないかと。

公開当初は漢字で「貴方」がいいんじゃないかと思ったり、しかししょせんそれは字面遊びにしかならないのでやめたりしましたが、しかし今回はふと思いつきました。

尊公。

「御存知だと思っていたのです、尊公。いや、これは気の利かぬ招待主で恐縮です」

「そこにあの戦争が起こったのですよ、尊公」

「何と言いますか、ほら、尊公はそう大金をお稼ぎになっておられるわけではないのでしょう?」

「おれに向かって『尊公』はやめろ!」

ネタ元は、司馬遼太郎『花神』です。二宮敬介が主人公・村田蔵六をこう呼ぶんですが、敬愛の気持ちがすごく伝わるよい言葉ではなかろうか。

訳語としては、「親友」とくらべて、二人称として使うことができるのは有利だと思います(例3みたいに)。台詞としてはかなり不自然ですが、そこはそもそもが不自然なんだし。いまどきだれがこんな言葉使うんだよ、みたいな雰囲気もフォローできてるんじゃないかと。

似た雰囲気のことばに「貴下」がありますが、ちょっと音が好きじゃない(2音は短すぎる!)という意味不明な理由で外しました。「足下」はもちろんダメですし、「大兄」だと、ギャツビーの場合、闇社会とのつながりみたいな色合いがでてしまいそうなので×。「貴公」はどうなんでしょうねえ。オレはこの言葉にあんまり敬意を感じないので採りませんでしたが、日本語としてはこっちのほうが自然かもしれないなあ。

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2012/07/27

Re: コメントにならないコメント-11

最後のコメントできびしいご指摘。

hardware 屋さんを「重機」なんてとんでもない訳語もありましたね。普通の金物雑貨屋さんのことですよ。ブルドーザーを商っているわけじゃない。

はい、です。でもちょっと言い訳タイムをいただこうかな。

まあオレの知識不足たるところなのですが、これが「雑貨」を意味するのか、「中間材料」を意味するのかわからんのですね、今なお。地金・板金類を扱ってるんじゃないかなあ、という気がしたりもするんですが、そこで「金物」というとちょっと意味合いが変わってくるか?と迷いつつも、そもそも「重機」にした最終的な動機が「よくわからないので、野崎訳とあえてちがう単語を選択してみる」というコピーライトトラップ回避主眼の卑しいしろものだったりもするので、こうして公にダメ出してもらったのはかえってありがたかった感はある。

まあ、「中間材料」としても、「重機」は変だよね~。この件は、以前から気にはなっていたので、先だっての修正時に「金物」に変更しましたが、そこでこの記事に気づいたのでご紹介しておきます、ということで。

んで、もうひとつ。

英語で brother とか sister だと日本語に訳しにくいのです。前後関係から「兄」と想像できることもあります。例えば「祖父の兄」と言っても妥当なことがある。しかし、この訳者は、そうしておきながら「大叔父」と great-uncle を訳してしまっている。それとも、今頃の日本語では「大伯父」と「大叔父」の区別はつけないのでしょうか。

へえええ~。なんて言ってしまうのがまたなお不勉強ではありますが……。そっか、たしかに「伯」は長兄を意味するんでしたっけ。いや、まったくその辺りの意識がなく、ご指摘のとおりオレの中では区別がついてません。なるほどねえ……。

次回の修正時に変更するようにしようかな。

2012/07/25

パブー版『グレイト・ギャツビー』公開をめぐる想いのはしきれ。

電子書籍の作成・販売ができるサービス「パブー」にて、『グレイト・ギャツビー』を公開しました。あえて有料 (3,000円!) です。

なにがやりたいかというと……本質的にはまあ、売名行為ですね。はい。

青空文庫のおかげでネット上にオープンな古典文献を蓄積するという活動があることはそれなりに知られているとは思うのですけど、プロジェクト杉田玄白をふくめ、そこに翻訳によってかかわるというあり方は、まるで盛り上がらなかったみたいだなあというのが、アクティブでなくなってから10年たった私が、2012年に自分のサイトの移転をしながら感じた印象でして。

需要があまり高くないのは仕方がないとしても、認知度そのものが低いと思うのですね。

そこで、『ギャツビー』を使ってこういう活動があるということを違うプラットフォームに広げてみることにしました。青空文庫で『ホームズ』シリーズや『あのときの王子くん』の翻訳をはじめに精力的に翻訳活動をなさっている大久保ゆうさんもパブーで活動なさっているので、まあ重複はするんですが、『ギャツビー』は今年末に映画化される関係で注目を集めやすいと踏みました。しかも3000円ですよ。あほかコイツと思って1ページめくらいは見てもらえるんじゃないかと。

とりあえずそういう情宣ができればまず目標は達成できるわけですが、そんでもしお金を出してもいいよって人が万が一でてきたとしたら、それはそれでオレとしてはとても嬉しいしありがたい。そして、「こういう展開もありかもよ」っていう、オープンな翻訳活動のまた違うモデルの参考例にできるんじゃないかと。

正直、お金を絡めた話に持っていくのはやっぱり抵抗はあります。でもクリス・アンダーソンの『フリー』を読んでいて思ったんですが、「読者にお金を配るというやりかたは成立しない」んですよね。どこかである程度のなにかを回収しないと破綻してもしかたがない、ということになってしまう。例として適切かどうかわかりませんが、Katokt さんの翻訳にせよ、Osawa さんの『物語倶楽部』にせよ、主体者がリソースをさかなくなれば、そこでおしまいです。

本質的にオレの活動は無償奉仕であって成果物が無償で提供されていることに意味がある。そう、客観的に言えばそのとおりなんだけど、なんというかな、あんまり無償で!とか無料で!とかいうヒステリックな物言いは好きじゃないのですね。無料と聞くと「なんかうさんくさいな」と一瞬身構えてしまったりとか。

そこにエリック・レイモンドたちが言うような「評判モデル」が機能してくれればいいんですが、オレみたいな一般人には、評判と言ってもあんまり意味がないんじゃないか。そうすると、とりあえずはお金に行きついてしまうのかなあ、と、内心ひるみながらも、そう思うわけです。……まあ、パブー版の1ページめにちゃんともっと書いてありますので、そちらも参考にしていただくとして。

とにもかくにも、どんと3000円を積んでくださる方がでてくるのか。あるいは、全然話題にもならずに消失してしまう試みか。さあ、どうなることでしょう。

おまけ。表紙は適当に作ったんだけど、なんかちょっといい感じのように思えてきた。手作り感と適当感のほどよいミックス。

2012/07/24

[翻訳] 『グレイト・ギャツビー』修正

『グレイト・ギャツビー』、直前のエントリーで言及したものを含み、大幅に修正を行いました。本文差分

今回、差分を「青空文庫修正履歴作成ツール」によって出力してみました。Shift JIS のみ対応なので unicode を使っている html 形式のファイルには差分を出せませんが、どこがどう変わったかについては逆にはっきりわかるんじゃないかと思います。便利。

しかしまあ、なかなかきびしい間違いが多く……。ほんとうを言うともう少ししっかりチェックをしたいのですが時間が許しますことやら。

2012/07/17

Re: 言葉を紡ぎだすのが作家の喜び

というエントリーを見つける。

主題は『グレイト・ギャツビー』の第5章、ギャツビーがシャツを投げまくる場面の翻訳についてのコメントなのだけど、正直、これは参った。野崎孝訳、村上春樹訳と比較されるのは、まあ仕方ないとしても、その上でわりと好意的なコメントがつくのはどうしたものだろう。

オレとしてはこの部分の翻訳は全然駄目だと当時から思ってたので、よりによってここを取り上げなくても、という思いは、ある。問題の原文は、こうだ。

He took out a pile of shirts and began throwing them, one by one before us, shirts of sheer linen and thick silk and fine flannel which lost their folds as they fell and covered the table in many colored disarray. While we admired he brought more and the soft rich heap mounted higher - shirts with stripes and scrolls and plaids in coral and apple-green and lavender and faint orange with monograms of Indian blue. Suddenly, with a strained sound, Daisy bent her head into the shirts and began to cry stormily.

"They're such beautiful shirts," she sobbed, her voice muffled in the thick folds. "It makes me sad because I've never seen such - such beautiful shirts before."

で、オレはこう訳している。

ギャツビーはワイシャツの山を取りだし、1枚1枚、ぼくらの目の前に投げ出しはじめた。地味な麻のシャツ、厚いシルクのシャツ、見事なフランネルのシャツが、宙を泳ぎながらその折り目を開き、彩り豊かにテーブルの表面を飾っていく。感嘆しているぼくらを尻目にギャツビーは次々とシャツを投げ、柔らかで贅沢な山はさらに高く伸びる――縞模様や渦巻き模様や格子模様が珊瑚色やら青林檎色やら薄紫色やら淡橙色やらで入り、インディアン・ブルーの糸でイニシャルが刺繍してある。とつぜん、耐えかねたような声をあげたデイジーは、シャツの山に顔を埋め、堰を切ったように泣きはじめた。

「こんなに綺麗なワイシャツなんて」としゃくりあげるデイジーの声はひどくくぐもっていた。「見てると悲しくなってくる。だってわたし、こんな――こんな綺麗なワイシャツ、見たことないんだもの」

野崎訳、村上訳がそれぞれどうなっているかはリンク先でとくとごらんいただくとして。

まず何が駄目かって、「縞模様や渦巻き模様や格子模様が珊瑚色やら青林檎色やら薄紫色やら淡橙色やらで入り、インディアン・ブルーの糸でイニシャルが刺繍してある。」という文章は最悪だ。暴れ馬にふりおとされないようにと無様にしがみついているにすぎない訳し方。「地味な麻のシャツ、厚いシルクのシャツ、見事なフランネルのシャツが、」というのも、ちょっと原文とずれる上にイメージが鮮明でない。

第2段落の訳は、そう悪くないと思うので(というか、そう外しようがないというか)そのまま。ということで、これでどうだろう。

ギャツビーはワイシャツの束を取りだし、11枚、ぼくらの目の前に放り投げはじめた。薄手のリネンのシャツ、厚手のシルクのシャツ、洒落たフランネルのシャツが、宙を泳ぎながらその折り目を開き、テーブルの上に彩り豊かに散り積もっていく。感嘆しているぼくらを尻目にギャツビーは次々とシャツを投げ、柔らかで贅沢な山はさらに高く伸びる――横縞・縦縞・格子の模様、珊瑚色・青林檎色・藤色・薄橙色の布地、インディアン・ブルーの飾文字。とつぜん、耐えかねたような声をあげたデイジーは、シャツの山に顔を埋め、堰を切ったように泣きはじめた。

「こんなに綺麗なワイシャツなんて」としゃくりあげるデイジーの声はひどくくぐもっていた。「見てると悲しくなってくる。だってわたし、こんな――こんな綺麗なワイシャツ、見たことないんだもの」

すこしリズム感はよくなったと思いたいけれど、中黒を使うのも、あんまりよろしくはないかもなあ。「藤色」は野崎訳パクリで。ここはたしかに自然物の名前を冠した色でなきゃいけないけど、「ラベンダー色」とすると浮きすぎる。

あとは「柔らかで贅沢な山」もなんとかしたいとは思うんだけど、表現力不足。

追記: いろいろ考えて「ふかふかの」でシンプルにいけそうな気がする。

2012/07/13

[翻訳] ギャツビーに関するリアクションをもうひとつ。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/4383/1088779869/63
よくわからないけど、名高い2チャンネルではなさそうな、どこかの掲示板。

He did not know that it was already behind him, somewhere back in that vast obscurity beyond the city, where the dark fields of the republic rolled on under the night.

http://www005.upp.so-net.ne.jp/kareha/trans/gatsby.htm あの街の向こう、あの広大で曖昧とした世界、共和主義の原野が夜にまかせて押し寄せようとしていたところにぼくらが置いてきた夢。

ぼくらが置いてきた夢。is not correct. Gatsby's dream was already behind him.

Here "the republic" just means "this nation" (the USA).

そのとおり、としか言いようがない。ゴメンナサイ。

一応その狙ったところを記録に残しておくと、the republic を「国」よりも「思想」として読みたかったんだ。「みんなで幸せになりましょうね」的な共和主義思想と読めば、「じゃあどうしてそもそもの起こりが共和主義であるはずの国でギャツビーは幸せになれないわけよ?」というニック=フィッツジェラルドの怒りみたいなものが、この文章から感じられないだろうか。

そこで「共和主義」としたわけだけど、こうするとこの the republic がアメリカであることは確実に伝わらなくなってしまう。そこで、最初の文章を作り変えて「ぼくらが……」という形に。「ぼく」はニックなので、「ぼくが置いてきた」場所はアメリカになるはずだ。

まあ、翻訳としては邪道のきわみである。

そして、つまり、オレはこのシーンを「共和国」が「夜」=「夜明け前」にあったころの歴史の話をしていると思っているのだけど、でも一般に手に入る訳書を見る限り、こんな解釈をする人はいないみたいだね……。

なんにせよ、夢がビハインドにあるのは、ギャツビーが主体的にそうしたからではないので、動作を伴う動詞を入れるのはまずそうだ。vast obscurity に「茫漠たる」を使うのは野崎孝訳に遠慮して避けていたのだけど、どうやら村上春樹訳もそうしているらしいので、もう遠慮することはなかろう。

かれは、それがとうに過去のものになったことを知らなかった。それがあるべきところは、あの都市のかなたの茫漠たる世界のどこか後方、この共和国の、夜の帳の下にうねり広がる、闇深き原野だったのだ。

……ピンボケぎみだろうか。「この共和国の、」で一回切れるのも係りがわかりづらい。「共和国」を主格にしてみる?

かれは、それがとうに過去のものになったことを知らなかった。それがあるべきところは、あの都市のかなたの茫漠たる世界のどこか後方、この共和国が、夜の帳の下にうねり広がっていた、闇深き原野だったのだ。

直前のエントリーで「読み手としての解釈を翻訳に載せるのはいかが」みたいなことを書いておいてあれだけど、ここについてはもういいやという気がしてきた。もっと大胆に過去の話にしてやれ。

かれは、それがとうに過去のものになったことを知らなかった。それがあるべきところは、あの都市が茫漠として形もなかったいつかのどこか、この共和国がいまだ夜の帳の下にうねり広がっていたころの闇深き原野だったのだ。

誤訳……というか、誤読という汚名はあえて甘受することにしよう。

でも、歴史レベルの過去のことを語って(ニューヨークの最初の植民者はオランダ人だ)、直近のギャツビーにことを考えて、歴史と直近の出来事を絡め合わせるという思考の流れには、無理がないと思うんだ。

[翻訳] Re: 無料で読める『グレイト・ギャツビー』(青空文庫)

というエントリーを見つけたので、ちょっと内容を検討してみたい。

直訳体なので、もっと日本語を磨いたほうが伝わりやすいのにと思える箇所もある。たとえば、「異常なほど意思を伝えあう」とか「資質が平凡」とかは改善が必要だろう。しかし逆にみれば、凝った言い回しを使っていないので読みやすい。野崎訳はもちろん、それを批判している村上訳も案外古い表現が多い。

なるほど。直訳体については、そうでしょうね。オレは翻訳の際に文章の流れや長さが極端に変わるのをいやがるたちなので、どうしてもそうなってしまいがちではある。そこにあるぎざぎざ感をいかに丸くこぼしていくか。つまり、お褒めの言葉を(ちょっとずるい形で)借用すれば、「直訳体なのに読みやすい」という形こそが個人的な理想なわけだけど、なかなかそううまくはいかないんだよねえ……。

1. 「異常なほど意思を伝えあう」

原文は "unusually communicative" 。そしてじつはこの部分、他の方からも表現が変と言われたことがある。う~ん、でもこの部分は、すごく表現しづらい。"always been unusually communicative" と、「常に~普通じゃない」という表現は一瞬ひっかかるものを感じるし、そもそも「普通にコミュニケイティブ」というのは、いったいどんな状態を指すんだろう?

そんなわけで、ここの部分はオレの読者としてのとまどいがそのまま打ち出してあるわけだけど、そんな中でちゃんと伝えるべきと考えた要素は、「行き交う情報量が普通じゃない」ということだった。少々いびつな表現になってはいるものの、きっと誤りなく読み取ってもらえると思いたい。

で、この部分、もうちょっとつっこんで考えてみたい。問題は、どう普通じゃないのかということ。それはたぶん、「一を聞いて十を知る」的な、増加直線的なものではないように感じる。もっとこう、「一を聞いて一じゃない可能性を知る」みたいな、ひどくまわりくどいコミュニケーションのあり方じゃなかろうかと思う。

たとえば、冒頭の「他人のことをとやかく言いたくなったときはいつでもね、この世の誰もがおまえほどに恵まれた生き方をしてるわけじゃないと思い出すことだ」という父のことばは、普通じゃない (unusual) 解釈をすれば、「自分より恵まれている相手をとやかく言うはよし」ということなわけで、結局、ニックはそれにしたがってか、ギャツビーを「軽蔑するものすべてを一心に体現する男」と言い切ってしまうし、終盤ではトムとデイジーを終盤で断罪するいきおいを示す。そして、ウィルソンに対しては基本的に同情的である。

と、オレは読んでいるのだけど、でも、これは非常に個人的な、そしてたぶん異端的な読み方であって、しかもオレ自身絶対的に正しいとは思っていないくらいなので、翻訳上に示すのはいかがなものか。というわけで、具体的なところは読み手の想像にまかせるとして、「標準以上の」とも「標準以下の」とも解することのできない言葉を選択して、こうなりました。

さて、もし修正するとしたら、どうするだろうなあ。たしか、初稿の初稿では「並大抵でないコミュニケーションのとりかた」だったような記憶があるが、それと比べたら今の方がマシだ。


2. 「資質が平凡な」

う~ん、そうくるのか……。前後を補うと、こうだ。

風変わりな精神の持ち主は、ぼくのような資質が平凡なひとたちの中に現れると、それを目ざとく見出し、すりよってくるものなのだ。

The abnormal mind is quick to detect and attach itself to this quality when it appears in a normal person,

……なるほどと思う。オレの想定では「ぼくのような資質が/平凡なひとたちの中に/現れると」なんだが、たしかにそう読ませるのは無理がある。

"abnormal spirit" v. "normal person" を活かしつつ、これならどうだろう:

並外れた精神は、並みの人物がこの特質をあらわにすると、たちまちそれを察知し、くっつこうとする。

やはり、精神の「持ち主」は補ってやる必要があるか?

並外れた精神の持ち主は、並みの人物がこの特質をあらわにすると、たちまちそれを察知し、くっつこうとする。

……なんだか、ちょっと違うんだよなあ……。持ち主をやめて、特質→心がけなら?

並外れた精神は、並みの人物がこの心がけをあらわにすると、たちまちそれを察知し、くっつこうとする。

appear を少し弱く、attach を少し作った感じで。。。

並外れた精神は、並みの人物がこの心がけを見せると、たちまちそれを察知し、そこにぶらさがろうとする。

……こんな感じでまあ遠からずだろう。理想を言えば語順をそのまま使いたいが、「察知」を前に出すのはかなり無理がありそうだ。

2012/07/06

『クリスマスキャロル』(Katokt訳)公開

まず、本文から除去してしまった Katokt さんによるあとがきを引用:

後書き

まずは訳の感謝から、クリスマスに感謝を。クリスマスがなきゃ夏の暑いさかりにかけてすっかり中断していた翻訳は永久に完成しなかったことでしょう。またいつもながらプロジェクト杉田玄白の主催者でもある山形浩生さんにも感謝を。

ディケンズの生涯なんかは、サマセットモームの世界の十大小説にで詳しいので、そちらをどうぞ。

あいかわらず翻訳にはまちがい、勘違い、ケアレスミスとありとあらゆる災難(もちろん人災ですが)がつきものなので、訳者(katoukui@yahoo.co.jp)まで教えていただければ幸い。

まあ、たまにはこういう話をじっくりよんでみるクリスマスもなかなか悪くないんじゃないかと、物語が書かれてから150回以上たった今年のクリスマスにふと思ったりもするわけで、ではみなさん楽しんでください。

引き続き、katokt さんが2003年に翻訳したもの。2009年頃に Not Found になってしまったようですが、せっかくなので、Wayback Machine を使って 2008年10月15日のアーカイブを元に回復しました。再利用の許諾条件は満たすと思うので、問題はないと思ってます(Katokt さんと連絡が取れれば話が早いのでしょうけれど)。

ついでなので、マークアップを整理したり、青空文庫形式のテキストファイルを準備させていただきました。「だ・である」と「です・ます」が混在した状態で、かなり校正を入れる必要がありそうなので、文章自体にはほぼ手直しなしでいったん公開します。挿絵は申し訳ないのだけど抜きました。

『アレキサンダー・エイブラハム家での隔離』(Katokt訳)公開

  • ルーシー・モード・モンゴメリ『アレキサンダー・エイブラハム家での隔離』(Katokt訳)を公開しました。

まず、本文から除去してしまった Katokt さんによるあとがきを引用:

あとがき

この短編を訳してみれば? とアドバイスをくれたよしみねさん、どうもありがとう。女性が主人公の短編を訳すのは難しいっす。なんか最後まで感じがつかめてません。これをベースにした改訳なんて望ましいですね。そろそろ赤毛のアンなんかもパブリックドメイン入りですか。

これもまたオレの翻訳ではなくて、katokt さんが2003年に翻訳したもの。2009年頃に Not Found になってしまったようですが、せっかくなので、Wayback Machine を使って 2008年10月15日のアーカイブを元に回復しました。再利用の許諾条件は満たすと思うので、問題はないと思ってます(Katokt さんと連絡が取れれば話が早いのでしょうけれど)。

ついでなので、マークアップを整理したり、青空文庫形式のテキストファイルを準備させていただきました。また、「アブラハム」を「エイブラハム」に、「アドルフ」を「アドルファス」に変更しました。他にもちょっと手直しが望まれそうな部分がいくつかありますが、とりあえずそのままにしています。

この話は主人公とエイブラハムの会話に妙味があるので、どうせ手を入れるなら大胆に、と思うと、小さな手入れをするのがどうにも億劫に。

『ケンジントン公園のピーターパン』(Katokt訳)公開

  • ジェイムス・マシュー・バリ『ケンジントン公園のピーターパン』(Katokt訳)を公開しました。

まず、本文から除去してしまった Katokt さんによるあとがきを引用:

あとがき

この作品の翻訳は、まさにインターネットにピーターパンの翻訳を公開したあともらった一通のメールからはじまったのである。ピーターパンを訳しているときに、こういう作品もあるんですよというメールをFさん(本当に感謝)からいただいて、ピーターパンの翻訳と同時並行的に、協力して少しずつ訳しはじめたのがその始まり。しばらくしてお約束のように連絡が途絶えてしまったので、katoktが協力した分も含めて全て訳しなおしています。(よって本翻訳におけるすべての誤りに対し、全ての責任を負っているのはkatokt。指摘などがあればkatoukui@yahoo.co.jpへ)

作者、作品については、ピーターパンの後書きから再掲すると、ピーターパンに直接かかわるJ.M・バリ の作品は以下の3つで、本作品は最後に発表された作品となる。

1902 小さな白い鳥:バリ自身を思わせる中年の独身男を語り手とする私小説

1904 ピーターパン(戯曲、1912には小説化):ご存知の演劇、チャップリンの出演やティンカーベルの演出などいろいろなエピソードにも事欠かない

1906 ケンジントン公園のピーターパン:小さな白い鳥からピーターに関連する6つの章を抜粋

作品についてもっと詳しく知りたい方は「ピーターパン写真集」鈴木重敏、新書館なんかが、ピーターパンの演劇のエピソードもいろいろ盛り込まれていて面白いと思う。ただ、この本の説明では、ケンジントン公園のピーターパンは6つの章となっているが、実際に今回の翻訳は4章分。いったい残り2章はどこにいっちゃったんでしょう? まあ原文が手に入ったら追加することとします。

訳していてもピーターパンとのいろいろな共通点、変更点が読み取れておもしろい。興味深い変更点としては、ピーターパンが飛ぶときに本作品では強く信じれば飛べることになっているけど、ピーターパンの方では妖精の粉が必要ということになっている点などがあげられるだろうか。これは当時あまりに多くの子供が強く信じるだけで飛ぼうとして怪我をしたので、そう書き改められたということである。大変ほほえましいエピソード。

もうひとつ翻訳の強力な後押しをしてくれたものとして、Arthur Rackham の挿絵も欠かすことはできない。かなりファイルサイズも大きくはなるが、ぜひ挿絵入りバージョンで読んで欲しい。

今回は感謝を最後にもってきて、結城さん(http://www.hyuki.com/)には訳において多大なる指摘をいただきました、また青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)の富田さんも本当にありがとうございます。そしていつもながらに目を離せない山形浩生(http://www.post1.com/home/hiyori13/jindex.html)にも感謝。

これもまたオレの翻訳ではなくて、katokt さんが2000年に翻訳したものです。プロジェクト杉田玄白の正式参加テキストであり、以前は青空文庫にも登録されていたけれど、2009年頃に Not Found になってしまったようで。

せっかくの全訳がこのまま消え去ってしまうのは少々もったいないと思うので、Wayback Machine を使って 2008年10月2日のアーカイブを元に回復しました。再利用の許諾条件は満たすと思うので、問題はないと思ってます(Katokt さんと連絡が取れれば話が早いのでしょうけれど)。

ついでなので、明らかなミスタイプを修正したり、マークアップを整理したり、青空文庫形式のテキストファイルを準備させていただきました。あとまあ、手間を惜しんだ結果挿絵を抜きました。いずれなんとか。

翻訳自体には手をつけていません。Neverpedia のテキストと照らし合わせてみると、1. The Grand Tour of the Gardens と 6. Peter's Goat が欠けているみたい。そして三章と四章は順番が逆。三章の終わりがひどく唐突で、次の章へのつながりにかけると思ったら、そういうことか。

外部リンク

『ピーターパンとウェンディ』(Katokt訳)公開

  • ジェイムス・マシュー・バリ『ピーターパンとウェンディ』(Katokt訳)を公開しました。

まず、本文から除去してしまった Katokt さんによるあとがきを引用:

後書き

まずは訳の感謝から、武井さん結城さん、枯葉さんには訳において多大なる指摘をいただきました。また訳をはじめる動機の部分においてyomoyomoさん、それからプロジェクト杉田玄白の主催者でもある山形浩生さんにも感謝します。また青空文庫の富田さんにもいろいろな指摘やご尽力をいただきました。

作品と作家についても少しだけ。

作家は自分の着想を大事にするもんだねぇ。作者のバリは、ピーターパンに関連する5冊もの本(写真集と戯曲を含む)を書いている。

1901 ブラックレイク島少年漂流記
本文なしの写真だけの本で、バリみずからも「もしこの本を買う人がいれば、多分不平を言うだろう。だが世間には本文などないほうがましな本がいくらもある」だって

1902 小さな白い鳥
バリ自身を思わせる中年の独身男を語り手とする私小説

1904 ピーターパン(戯曲)
ご存知の演劇、チャップリンの出演やティンカーベルの演出などいろいろなエピソードにも事欠かない(詳しくは参考文献を)

1906 ケンジントン公園のピーターパン
小さな白い鳥からピーターに関連する6つの章を抜粋

1912 ピーターとウェンディ
この翻訳

これらはいずれもケンジントン公園で知り合ったデイヴィス家の5兄弟(3番目の子の名前がピーター)との交流から書かれたもので、バリは生涯彼らと、病気、戦争や事故でその交流は悲劇的な色合いも帯びるが、密接な関わりを持って行くことになる。演劇などの成功で経済的にも文学的にも恵まれてはいたけれど、私生活では結婚はしたものの離婚して、子供もいなかったバリにしてみれば、その交流が心あたたまるものだったことは想像するに難くない。ピーターパンの全ての権利を小児病院に寄付しているし(その契約が有効で、本国のイギリスでは著作権の切れた今でもピーターパンはいわゆるパブリックドメインな文書ではないと思われる)本当に古きよき日のイギリス紳士といった感じである。

まあもっと詳しく知りたい方は「ピーターパン写真集」鈴木重敏、新書館なんかが、ピーターパンの演劇のエピソードもいろいろ盛り込まれていて面白いと思う。

この翻訳も作者にふさわしく、友達の子供の誕生日祝いにしてみました。まあ訳の出来はともかく、魔法のおなべから生まれたピーターパンをどうか愉しんでください。

これもまたオレの翻訳ではなくて、katokt さんが2000年に翻訳し、『ピーターパン』という題で公開したものです。プロジェクト杉田玄白の正式参加テキストであり、以前は青空文庫にも登録されていたけれど、2009年頃に Not Found になってしまったようで。

せっかくの全訳がこのまま消え去ってしまうのは少々もったいないと思うので、Wayback Machine を使って 2008年10月2日のアーカイブを元に回復しました。再利用の許諾条件は満たすと思うので、問題はないと思ってます(Katokt さんと連絡が取れれば話が早いのでしょうけれど)。

ついでなので、明らかなミスタイプを修正したり、マークアップを整理したり、青空文庫形式のテキストファイルを準備させていただきました。あと、ややこしいので題名を『ピーターパンとウェンディ』に変えています。

翻訳自体にはいまのところ手をつけきれていません。「いまのところ」というか、これについては今後語もありません。この話、個人的には苦手なんだ……。

ところで、『ピーターパン』関係は、たしか、本源国イギリスではまだ著作権が有効なので、若干取り扱いに注意が必要です。

『ジキルとハイド』(Katokt訳)公開

まず、本文から除去してしまった Katokt さんによるあとがきを引用:

あとがき

宝島にひきつづいてのスティーブンソンの代表作、ジキルとハイド。最近はジーキルなんて表記もよく見かけるけど、僕の頭の中ではすっかりジキルなわけで、こう訳しておきました。訳者の特権かな。まぁ、でも気になる方は一括置換して読んでください、なんならそれで公開してもらっても結構(版権表示とどこを変えたかを明記してくれればね)。で、こういうのがプロジェクト杉田玄白(http://www.genpaku.org/)の自由な文書の特権とかって思うんだけど、いまいち活用されていない気もするなぁ。

それにしてもジキルが善で、ハイドが悪なんて思い込んでいる人のなんて多いこと! そんなに単純に割り切れるだけの話ではないんだなぁ、これが。まあ、じっくり読んでみてください。

それにしてもハイドの犯す「悪」が今となっちゃあ、ただひたすら単純で微笑ましくさえ思えるのは、これこそ昨今の凶悪な事件や俗悪? な本の悪影響なんだろうな、たぶん。

あとはこういう変身のカテゴリーでお奨めなのは、中島敦「山月記」(http://www.aozora.gr.jp/cards/nakajima/sangetsuki2.html)、カフカ「変身」( http://mentai.2ch.net/book/kako/963/963421916.html 文体模写のスレッド)あたりでしょうか? そして枯葉さん( http://www01.u-page.so-net.ne.jp/db3/domasa/ )、青空文庫の富田さん( http://aozora.gr.jp/ )、いろいろなご指摘をありがとうございます。またネット上でいつでもどこでも見かける山形浩生とそのプロジェクト杉田玄白( http://www.genpaku.org/ )にもいつもながらにTNX!

というわけで、『宝島』に引き続き、これもまたオレの翻訳ではなくて、katokt さんが2001年に翻訳したものです。プロジェクト杉田玄白の正式参加テキストであり、以前は青空文庫にも登録されていたけれど、2009年頃に Not Found になってしまったようで。

せっかくの全訳がこのまま消え去ってしまうのは少々もったいないと思うので、Wayback Machine を使って 2009年4月6日のアーカイブを元に回復しました。再利用の許諾条件は満たすと思うので、問題はないと思ってます(Katokt さんと連絡が取れれば話が早いのでしょうけれど)。

ついでなので、明らかなミスタイプを修正したり、マークアップを整理したり、青空文庫形式のテキストファイルを準備させていただきました。

翻訳自体にはいまのところ手をつけきれていません。「いまのところ」といっても今後どうか……まあ、優先順位はやっぱりかなり低い感じ。

2012/07/05

『宝島』(Katokt訳)公開

まず、本文から除去してしまった Katokt さんによるあとがきを引用:

あとがき(2001年6月13日)

記憶にのこる読み物って確かにあって、宝島は間違いなくその一つ。どこが記憶に残るかは人それぞれで、シルバーのやりたい放題ぶりだったり、鸚鵡のフリント船長の「八分銀貨」の鳴き声だったりするかもしれないが、なんといっても一部でのジム少年の冒険ほど、読む者を有無もいわせず引き込むストーリー展開は、なかなか他では味わえないと思う。そこを過ぎると意外と作者も力がぬけて、いろいろ構成をかえたり語り手を変えたり、再びとばかりにジム少年を冒険させたりするんだけど、最初の興奮は残念ながらなかなか越えないわけだ。それでも最後まで一気に読ませる読み物であるとこは、さすがだけど。

まぁ訳す側としては、いくつか海・船用語、海賊用語でちょっと頭をひねってるくらいで量をこなした以外はあんまり苦労らしい苦労はなし。誤字脱字、誤訳の指摘は大歓迎なので、訳者までよろしく

それから感謝を、Sogoさん(http://etext.3nopage.com/)全般にいろいろなご指摘をありがとうございます。枯葉さん(http://www005.upp.so-net.ne.jp/kareha/)には序文とその他の指摘をいただきました。また青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)富田倫生さんからも数多くの指摘をいただきました。それでなんといっても、いつもながらに山形浩生(http://www.post1.com/home/hiyori13/jindex.html)にも感謝、というか宝島は、彼の主催するプロジェクト杉田玄白(http://www.genpaku.org/)の趣意書のリクエストだったわけだ。

ということで次は何を訳しましょう、Boss? なんてね(笑)

というわけで、これはオレの翻訳ではなくて、katokt さんが2001年に翻訳したものです。プロジェクト杉田玄白の正式参加テキストであり、以前は青空文庫にも登録されていたけれど、2009年頃に Not Found になってしまったようで。

せっかくの全訳がこのまま消え去ってしまうのは少々もったいないと思うので、Wayback Machine を使って 2009年4月1日のアーカイブを元に回復しました。再利用の許諾条件は満たすと思うので、問題はないと思ってます(Katokt さんと連絡が取れれば話が早いのでしょうけれど)。

ついでなので、明らかなミスタイプを修正したり(まだありそうな感じではありますが)、マークアップを整理したり、青空文庫形式のテキストファイルを準備させていただきました。あと、Hawkins がホーキンスだったりホーキンズだったりしたので、ホーキンズに統一しています。

翻訳自体にはいまのところ手をつけきれていません。「いまのところ」といっても今後どうか……まあ、優先順位はかなり低い感じ。

2012/06/20

移転計画第一段階了。

ディレクトリ構成をようやく固め、旧サイトの翻訳関係の各テキストに案内を入れる。とりあえず感たっぷりだけど、移転ステップを1つのぼった。

ディレクトリの構成はいつものことながら悩ましい。いったん作者別に別ディレクトリにしようかと思ったんだけど、やはりメンテナンスの手間が大きすぎるのでボツ。けっきょく、元の構成とあんまり変わってないかもしれない。

そして単純にファイルをコピーするだけにしておけばよいものの、ついつい訳文の手直しを入れてみたりマークアップ構成をいじってみたり、おまけ機能をつけてみたりなんてやっていると、なんだかいつまでたっても終わる気がしない状況に陥るわけで、始めが肝心というのをつくづくと感じる。まあ、今回だいぶん後々のフォローがしやすい形にできたんじゃないかと思いますけれど。

今回特に書いておくべきことは HTML 形式のファイルからえあ草紙へのリンクを作ったこと。テキストビューアはいろいろとあるのだけど、ブラウザベースで動かせるえあ草紙はすばらしいと思う。

ファイルをダウンロードして、ビューアを開いて……という手順をすっとばしてワンクリックで縦書き表示ができるわけだから、ファイルをダウンロードしたその後、どこに保存するかとか、ファイル名をどうするかとかを考えなくてすむ。

未体験の方はぜひその便利さを体験してみてくださいな。とりあえずでよければ、このサイトのトップ3アクセスを誇る『二十年後』でもどうぞ。

移転計画の次のステップは、ネット上から消えてしまっている katokt さんの翻訳を回復するという試み。katokt さんはもうネットで活動されていないようなんだけど、プロジェクト杉田玄白に参加していた以上は自由に使っていいはずだし、まあ、個人的にはそれなりに思い出のあるものが含まれているわけで。

でも相変わらずの非効率主義なので、マークアップにがしがし手を入れてしまうだろう。なにせ Frontpage で作っていらっしゃったようなので、ソースを見るとシンプルにしてやりたくてしかたがない。とりあえず『宝島』で実際に手を動かしてみる。けっこう手間はかかるか。

2012/06/14

Nightmares of Meloen 翻訳

Battle for Wesnoth のアドオンリストを眺めてみると、いちばんダウンロード数が多いのは "Nightmares of Meloen" ということになっている。まあ、リリースが古いほど有利という感じのランキングになってしまうのだろうけど、でもやはりトップというのは気になるもの。と、興味本位でダウンロードしてみたら、これが予想外に凝った出来。

ネガティブ思考たっぷりの天才女魔術師の悪夢の産物というその設定を腰をすえて読んでいると、日本語で読みたいなと思い始めるのはどうにも性分というか。というわけで、とりあえずの全訳。翻訳率は100%になってるんだけど、「遊び方」の先のテキストが仕様上翻訳できないようなので、そこは英語のままですが。

中身は、po/mo ファイルのセットです。まずアドオン "Nightmares of Meloen" をダウンロードしてから、ダウンロード先のフォルダ data/add-ons/Nightmares_of_Meloen/translations/ 内に、上のzipファイルを展開してください。.../translations/ja/LC_MESSAGES/ というフォルダ構成になればOK。

アドオンの特徴:

アドオンの種別は「マルチプレイ用党派」。遊ぶときは、マルチプレイで時代を選択するときに「Default + Nightmare / デフォルト+悪夢」を選ぶ。すると、党派として、いつもの「忠誠軍」や「反乱軍」に加えて《Nightmares of Meloen / Meloen の悪夢》という選択肢が出ます。

この党派に属する種族は《Nightmare / 悪夢》《Aberration / 異形》《Elemental / エレメンタル》《Insect / 昆虫》の4つ。ユニットツリーは本家のデータベースをごらんあれ。

各ユニットの基本的な役割分担は、盾役として高耐性の《Unhatched / 孵らざる何か》、アタッカーとして秘術格闘の《Life Thief / 生命盗み》、裏秘術投射(秘術耐性の正負が逆転する)の《Scornful Watcher / 責めるまなざし》、偵察担当の《Unstable Elemental / 不定の精霊》、偵察に加えて「恐怖」で周りの敵の攻撃力を下げることができる《Howling Darkness / わめきたてる闇》、敵の回避率を落とす攻撃を持つ《Black Cat / 黒猫》、0レベルだけど群れるほど攻撃力があがる《Creepings / 蟲の大群》といった感じ。

正直、決定力は不足気味。格闘担当の《生命盗み》と投射担当の《責めるまなざし》が共存できないのがなんとも。混沌属性中心なので夜戦が勝負どころなんだけど、中立の《蟲の大群》も最大で 4-7 貫通格闘になるので主砲にしても面白い。回復役がいなかったりするあたり、「アンデッド」と感触は近いかもしれない。

私見ではあるけれど、全体的にバランスはわりにうまくとれているんじゃないかな。むしろちょっと弱いくらいな感じだけど、まあオレは対人戦をしないプレイヤーなので、ベテランプレイヤーにとってはどうかわからない。CPU戦で一通りマッチアップした感じでは、「北方部族」を相手するのがすんごいつらいです。CPU相手だというのに四苦八苦しながら1勝3敗……。「忠誠軍」「アンデッド」に対してはアドバンテージがある感じ。

雇用可能なユニットだけ紹介。

Life Thief / ライフシーフ / 生命盗み
種族は《悪夢》。
アドオンのアイコンにもなっているので、きっと代表格にちがいない。「自分の子供の成長を見届けられなかったらどうしよう」という、Meloen のネガティブ思考の産物。
6-3 格闘秘術+《吸収》を有する切り込み担当。総合的に見てチームを代表する火力ユニットだけど、他の攻撃手段がないので秘術に強い相手には手も足も出ません。耐性は悪くない (斬20 貫20 打50 火0 冷50 秘-10) ものの、村にいても回避率40%という無様さなので、袋叩きにされないようにご用心。しかも高価 (20) なのでなおのこと。
毒にならないし吸収もされないしで「アンデッド」にはめっぽう強いものの「忠誠軍」相手では出番なし。ウーズとガチで殴り合っても負けないような気がするけれど、昼に勝負するのは非効率。
レベルアップで 7-4 格闘秘術の《Soul Snatcher / 魂魄さらい》に。格闘能力に限ればレイスを上回ります。
Howling Darkness / ハウリングダークネス / わめきたてる闇
種族は《悪夢》。
「見えない敵があちこちにいて怖いよお」という Meloen のネガティブ思考の産物。
高移動力 (7) 《散兵》持ちの偵察係。このアドオンのユニークな能力の一つ、《horror / 恐怖》は、《統率》を逆転した効果があります。周りの敵の攻撃力が下がるので前線に置いておくと便利なのだけど、なにせ体力がない (20) 上に格闘攻撃手段がないのでさくっと死にます。7-2 投射冷気は《魔法》じゃないので間違いないように。1発当てれば殺せる、という状況で前に出すと、全ミス→敵ターンでボコボコにされるという、Wesnoth 定番の罠にはまります。とくに、格闘のできない子はいじめにあいやすいです。
《孵らぬ何か》の突撃をちょっと安全にできます。連携するといい感じ。
《恐怖》が効かない「アンデッド」相手では出番薄。「ナルガン同盟」に対して出すと、狂戦士の高笑いが響くこと請け合いです。
ユニット名の訳の出来がわるいという自覚のあるところ。なんかもっと言い方がないものか。
Black Cat / ブラックキャット / 黒猫
種族は《異形》。
「あたしってなんでこんなについてないの!」という Meloen のネガティブ思考の産物。
2-2 投射秘術+《魔法》についている《jinx / 厄病》に存在意義のすべてがかかっています。命中した相手の回避率を15%下げるという、非常に面白い効果があり、こいつを食らわせれば村に立てこもる回避60%のユニットも平地並みの45%に化します。《魔法》なおかげで常に70%命中するのがまた頼れるところ。
回避率を下げたら《生命盗み》でごっそり体力回復を狙ったり、《孵らぬ何か》の突撃でしとめたりと、希望が一杯に膨らみます。
平地でも60%という高い回避率がありますが、体力はないし (28)、耐性は軒並みマイナスという壊滅的な状態だし、攻撃力が低いせいで攻撃の対象にされやすいしで、あっという間に死にます。ある程度は消耗品と割り切らざるを得ないのかも。
もともと回避率の低い「ドレイク」相手だとまったく出番なし。
jinx はいろいろ悩んで《厄病》ということで。当初は《番狂わせ》で考えたのだけど、《Jinx Beast / 番狂わせの獣》がどうにもかっこ悪かったので。でも《Calamity / 厄病神》はどうなんだろうか。イメージとしてはぴったりなんだけど、「神」ということばを使うのはあまりよくない気がする。
Unhatched / アンハッチド / 孵らぬ何か
種族は《異形》。
「異常児が生まれてきたらどうしよう」という Meloen のネガティブ思考から生まれた手足つき卵。って書くと『半熟英雄』のエッグマンみたいだけど、違う。
そこそこの体力 (32) 、そこそこの移動力 (6) 、物理攻撃に対する優秀な耐性 (斬30 貫30 打10) を有する、チームの盾役。《slippery / ぬるぬる》《flexible / ぶよぶよ》《thick / ごわごわ》《hard / こちこち》というユニークな特性を1つを得ます。これによって、耐性がさらに20%上下します(順に 貫通+20 / 打撃+20 / 斬撃+20 / 斬撃+20 貫通+20 打撃-20)。まあ、平均すると、打撃だけはあんまり得意でないという感じですが、斬撃貫通に対しては50%軽減があたりまえな感じです。が、そこに落とし穴。
攻撃手段が《突撃》つきの格闘攻撃しかないので、うかつに攻めに使うと予想外にひどい目にあいます。打撃に弱めの《こちこち》な子にいたっては、魔術師に突撃したら杖でしばき倒される可能性があるのでご用心。
骨斧・骨弓に壮絶な強さを発揮しますが、ウーズに対しては手も足も出ません。
訳語は、謎な感じを重視してのもの。《謎の卵》とかのほうがイメージはしやすいかもしれないけれど、正体不明な感じが大事だと思う。
Scornful Watcher / スコーンフルウォッチャー / 責めるまなざし
種族は《異形》。
早い話が視線恐怖症の産物ね。
《arcane focus / 裏秘術》という第7の属性を割り当てられている 6-3 投射がまさしく存在意義のすべて。秘術耐性を正負を逆転してダメージを計算します。Wesnoth ってこんなコーディングができるのかと、正直びっくりしたところ。んなわけで、たとえば秘術耐性+20%の剣術士相手なら20%ダメージが増えます。単純威力でいっても投射攻撃のチーフ的なポジションのはず。でも《魔法》じゃないのでご用心。当たらないときは当たりません。
《監視者》《見張り》という具体感のあることばをあえて避けて《まなざし》に。
Unstable Elemental / アンステイブルエレメンタル / 不定の精霊
種族は《エレメンタル》。
Meloen の精神的な不安定さの象徴(たぶん)。
ターン終了時に地形に依存して竜巻・荊棘・地震・渦巻・砂嵐・霜雪の6つの形態をとります。どれもそんなに戦闘はうまくないので、あくまでも偵察係として運用するのがよさそう。
《不安定性精霊》のほうが正確だけど、趣味の問題で。
Creepings / クリーピングス / 蟲の大群
種族は《昆虫》。
隣接する《蟲の大群》の数だけ攻撃回数が増えます。6つの隣接ヘクスのうち1つは当然敵であるはずなので、最大で5回ボーナスがついての 4-7 格闘貫通に。が、体力がないので最後まで攻撃する前に殺されてしまうこともある。基本は数をそろえて消耗品としてバシバシ使い捨てる感じで。
維持費の計算が独特なので、とにかくまとまって行動させるように気をつける。細長いラインを作ると1箇所を切られただけで維持費が倍増するので、なるべく丸い形をとるように気をつけるといいかも。
《Creepings》って、ふつうは地虫じゃないの? 《這いよる地虫》とかにしてやりたかったのだけど、グラフィック上飛行しているのでそういうわけにもいかず。したがって、多少投げやりに訳語を選んでます。

2012/05/14

[絵] 石田徹也という救世士。

天神イムズ8F三菱地所アルティアムで開催中の石田徹也展を見に奥さんとお出かけする。

誰かに石田徹也が好きだ、ということを告げるのは、多少度胸がいる。もし相手が共感してくれるなら、かえってオレはその人のことを警戒するだろう。共感してもらえなければ、警戒されるのは自分だ。そして相手が何も知らなくて、「へえ~、どんな絵を書いた人?」と問われれば、オレは確実に返答に窮する。

ストレス社会に生きる現代人の肖像、という最大公約数の評価は、なんだかとてももどかしい。オレはこの人の絵を、たぶんもっとエゴイスティックに見ている。

石田徹也の画中の男は、いつも何かから必死に逃げ惑い、あるいは、すでに捕らわれている。冷たい筆致で描かれた世界は、しかし不安に満ちている。

オレはその不安にひどく共感する。共感せずに済むくらいに心強くあれば理想的だと思いながら、でもその不安は確かに自分の中にもあることを認めざるを得ない。そして他にも共感する人々がいるという事実に、なんだかとても救われるものを感じてしまう。

芥川龍之介は「ぼんやりした不安」を自殺の動機に挙げた。「ぼんやりした不安」について芥川は『或る阿呆の一生』『或旧友へ送る手記』『遺書』など言葉を重ねて一生懸命に説明するわけだけど、でもしかし、率直に言ってよくわからない。でも、石田徹也はそれをイメージ化してのけた。

イメージを与えられた不安は誰かと共有することが可能になる。誰かと共有するために不安のイメージを固定する。それこそが、石田徹也の絵が持つ力じゃないだろうか。と言いつつ、オレは結局、石田徹也が好きだと軽やかに言ってしまう人を、きっと警戒してしまうだろうけれど……。

5/27までは再入場可能らしいので、もう1回くらい見にいけたらいいな。入場料400円というのは破格だと思いますので、天神にアクセスできる方はこの機会に、ぜひ。

【参考リンク】
石田徹也展 / 三菱地所アルティアム(イムズ8F)
会期は5/27まで。入場料400円、前売300円。
石田徹也公式ホームページ
■ウィキペディア / 石田徹也
若干オレが書いた部分があります。でもいつの間にか英語版の方が詳しい……。『無題2001』はその後もう一回オークションに出品されて3倍近い値段がついたんだって。
■『石田徹也全作品集
高いけど、オススメ。そういえば、今回の展示会のおかげで、この本の言う某癒し系女性タレントがどうやら井川遥らしいことを知りました。


2012/05/08

[ER] 翻訳文書移転。

翻訳関係の移転をとりあえず完了。インデックスは思い切って方針を変えてみました。つか、ほんと10年前とはウェブの表現力がぜんぜん違うものだねえ。当時の javascript は class 属性の値を書き換えるとかはできなかったような気がするんだけど。つか、エレメントをオブジェクトとして取得するなんていうやりくち、あったっけ? あまり技術的にはついていけてませんが、とりあえず javascript で作者情報をちょっと動的に。縦長でどこに何があるのか分かりづらい構成が改善できていれば、と思うけど、理想はもうちょっとごにょごにょ。勉強が必要ですね。

やりのこしメモ。

  • 悪魔の辞典
    • インデックスのマークアップがぐちゃぐちゃ!
    • 各ファイルのヘッダにある link 要素のファイル名が正しくなくなってる。
    • 固有名詞からウィキペディアにリンクが出せるとよさそう。スタイルを下線(破線)にするとかして他のリンクと区別するようにはしないといけない。
  • インデックス
    • 表示中の作者名のスタイルを変える。
    • :hover リンクのスタイルは変えてあげるほうがいいか?
    • たぶんファイルサイズがあってない。
    • このブログへのリンクはあったほうがいいかもしれない。
  • 作らなきゃいけない、または、復帰させないといけないページ(たぶん)
    • アクセス解析に関するお知らせ。
    • ライセンスに関するお知らせ。
    • 各翻訳の覚書。
    • 文字コードとかファイル形式とかの補足説明とか。できれば。
    • 趣旨演説とか。気が向けば。
  • 各ファイルの本文の最初に外部 javascript の関数をひとつを埋めてあるのでこんな要素を共有化させてみたい。
    • スタイルを変える機能。縦書きとか。黒字に白文字とか。
    • .txt (zip) へのリンク。
    • このブログへのリンクはあったほうがいいかもしれない。

2012/05/04

[翻訳] 「多忙なブローカーの恋愛事情」

オー・ヘンリー「多忙なブローカーの恋愛事情」を公開。サイト移転の完了に先行して BBIQ ドメインにだけアップしてみました。小品ですので10分かからずに読めるんじゃないかと思います。

「意外な結末」を持ち味とするオー・ヘンリーですが、でもオー・ヘンリーの本質的なよさって、本当は市井の人々に対する暖かいまなざしにあると思うのですよね。読んでいると、ああ、自分もこういう人たちでありたいなちょっと思ってみたりもするのです。

で、問題は、テキスト版を作るすべがなくなっているということで……。課題。やれやれ、やりたいことが多すぎてなんだか一向に進んでる気がしない。

追記

12/7/28 URL を修正しました。

12/9/18 さらに URL を修正しました。これについては後日あらためて……。

2012/05/02

WZR-HP-G302H その後

前回、結局修理センター行きとなった WZR-HP-G302H ですが、世の中はゴールデンウィークのはずなのに、はやくも戻ってきました。

修理報告書を見ると基盤故障だそうで、たぶん新品交換っぽい感じ。まあなんにせよ一週間も待たずにもどってきたのはありがたい。あんまり時間が空くと配線の仕方を忘れてしまうので。

それにしてもこのルータ、値段の割に多機能でいろいろとやれることがありそうなのだけど、何せ無線接続するようなデバイスを持ってないし、テレビはネットワーク非対応だし、プリンタはめったに使わないし、ネットワークディスク化するのもそんなに魅力を感じないとなると、まさしく宝の持ち腐れという気もしなくはない。

2012/04/24

インターネットに繋がらない。

とりあえず『黒の剣』までは作業が終わったので次に行こうとしたらインターネットに繋がらなくなってしまう。とりあえずの PC 再起動で復活しないので原因を調べないといけない。インターネットは便利なのだけどどうもこういうメンテナンスがめんどうくさい。

いちばん怪しいのはエラー表示らしいものが出ているバッファロー製無線ルータ WZR-HP-G302H なのでとりあえず再起動をかける。改善せず。初期化する。でも駄目。マニュアルも調べるけど DIAG ランプが赤点灯というエラー表示に関する記述はない。う~ん、インターネットに繋がらないのでマニュアルに載っている以上はトラブルシューティングができない。

他の可能性をつぶすという意味で LAN ケーブルの交換、光回線終端装置 (ONU って略すんだね) の再起動をかけるが改善せず。

次にプロバイダの問題を考えるけれど、メンテナンス情報ってネットにつながないと見れないよね……。と思ってたら BBIQ は音声案内でメンテナンス情報を発信してるらしい。かけてみるけど該当なし。というか、光電話が発信できる以上は回線には問題なしと思うべきか。そこで最後に ONU から有線で PPPoE でつなぐと、これは成功。ということはやっぱりあやしいのはルータである。

と、ここまで調べるのに2時間くらいかかっていてちょっと不手際を自覚しつつ。まあ、この間まで ADSL を使ってた人間なので勉強不足はいかんともしがたい。とりあえずバッファローのホームページを見、Google さんにも聞いてみるけど、これといった情報なし。

で、結局サポートに電話。長~い音声ガイダンスのあと、待つこと10分×3回。ようやく繋がって症状を説明。言われた手順どおりに復旧を試みるけれど、要するに昨日やったことの繰り返しなので、まあ手続きのようなものと割り切ってしたがう内に、わりとあっさり「修理に出してください」という結論をもらう。

2台の PC を同時接続するためにルータを導入していたのだけど、まだ買って3ヶ月もならないのに(製造は2011.11くらいらしい)修理行きというのは、正直なところちょっとがっかり。すべて有線接続で組んでいて、無線親機としての機能をいっさい発揮していないという役不足もいいところの状態だったので、これだったらプロバイダからのレンタルでよかったのかもしれない。

もっとも、Amazon あたりでの評価はけっこう高いようなので、まあ調子のあたりはずれがあるかもという感じなのでしょうね。

2012/04/21

[ER] Notepad++ と Shift_JIS

さっそく『黒の剣のほとんどすべて』から移転を始めた。でも、あれ、Forbidden? http://www1.bbiq.jp/kuronoken/ にアクセスしての Forbidden なのでとりあえず index.htm を index.html に変えてやると解決。どうやら BBIQ のサーバは "index.htm" じゃなくて "index.html" じゃないといけないらしい。どっかに書いといてほしいなあ。

で、Forbidden は解決するのだけど、こんどは文字化け? とりあえず文字コードが Unicode になってしまっているのはブラウザレベルで簡単に確認できたのだけど、ローカルのファイルを Notepad++ で開くとちゃんと Shift_JIS になっているように見える……。代わりに Mery で開いてみると、こっちでは Unicode になる。

ざざっと調べてみると、どうやら Notepad++ と Shift_JIS の相性の悪さが問題らしい。個人的には Notepad++ は使い勝手がよくて好きなんだけど、これはちょっと困る。テキストエディタを選びなおす? でも正直言って、ピンとくるものがないんだよね……。とりあえず、Mery (マイナーだけど、動作が軽快で好きなエディタのひとつ)で文字コードを変えなおすとしよう。どうせ「黒の剣」は更新する予定があまりないのでそんなに問題はない。

2012/04/19

[ER] 移転準備。

so-net をプロバイダとして長年使ってきた。でも引越しとか色々あって最終的に BBIQ に乗り換えることにしたのでホームページを移転する必要が出てきた。とりあえず現コンテンツをそのまま持っていくのだけど、せっかくだから手直ししておきたい部分はいっぱいある。

翻訳まわりについて。もちろん新しいものを書きたいとか、既存のものを見直したいとかいう気持ちはある。でもまずは形を整えてやらなきゃな。とりわけライセンス周りがひどく適当なのでクリエイティブ・コモンズに切り替えてやったほうがスマートなように思う。そんなものがなかった当時とは違うのだから、ここはより一般的な仕組みを利用させてもらうに越したことはない。国際方式でやると『ギャツビー』あたりがややこしいことになるので日本方式。この方式で選べる(+今の許諾条件と互換する)のは CC-BY-2.1 みたいね。CCのアイコンを入れるためにレイアウトを考え直して……ってやっていると結構手間がかかってくるのが嫌になるところ。昔から思うのだけど、ウェブのデザインというのはシンプルにしたいと思えば思うほど難しい。

ところで翻訳まわりについては、1年ほど前からこっそり Google Analytics をしこんであるのだけど、意外なデータがでている。アクセス数のトップが『悪魔の辞典』であることはまあ予想の範囲内として、次点は『二十年後』というのにはちょっと驚いた。このどちらも青空文庫からのリンクがない作品なので、その他の経路で閲覧にきているのだろうけど、どちらも毎月1,000件くらいのアクセス数が出ている。そんなに需要があるのか。その次にくるのは『ギャツビー』で、これもまあ順当なところだと思う。逆に予想と比べて低いのはホームズシリーズらしい。ビアスやウルフがランク外にくるのは、まあ当然か。いずれ、こういった数字もどこかにまとめてあげられたらいいな。

/gomi。もっていくかどうか悩むのだけど、まあとりあえず。今読むとあまり質はよくないなあ。最近はまるでゲームで遊ぶ暇がなかったので新ネタを載せることもできそうにないし、発展性はないのだけどね。

そして、『黒の剣のほとんどすべて』。Analytics のデータで何よりも予想外なのはこのコンテンツの需要の高さだったりする。なんと、いちばんアクセス数のあるページになってしまっている。たしかにこのゲームは攻略本が出てない(はず)なので、攻略情報が欲しければここということになるみたい。まあ、いつまで需要があるのかは正直わからないけれど、これは残しておくべきものなんだろう。

BBSは外す。

/boyaki はこのブログに統合してやれるといいのだけど、さてそうする意味があるのかどうかはちょっとよくわからないところ。個人的には、とても懐かしく読めるのだけど、でもこれは100%まじりっけなしの個人的感傷なわけで一般的にはまず意味のない。analytics は入れてないのでどれくらいのアクセスがあるのかも分からないしね。とりあえず外しといていいかなと思っている。

そうなると、まずは手直しがいらない『黒の剣』からかな。10年振りにがんばってみますか。

2012/04/07

[WP] ウィリアム・ヘイズン

4月7日付けでウィキペディア日本語版にウィリアム・バブコック・ヘイズンの記事をポストしました。とりあえずどういう人かは記事そのものを読んでもらうとして。

だいたい、あのアンブローズ・ビアスを士官に取り立てて幕僚に迎えているくらいなので、その人柄も推して知るべきというか。とにかく現状不満の騒ぎ屋でいろんな相手と喧嘩しまくった人……というのが、記事執筆前の印象だったのだけど、今回あらためて南北戦争中の戦歴を調べてみると、むしろ軍人としてはかなり優秀な人だったのではないかと思う。いきなり大佐になっているのは、まあ北軍の人手不足という事情を引き算してやる必要があるにしても、上が次々に挿げ替えられる中で一定の役割を果たし続け、最終的には少将に到達している。

南北戦争中の戦歴では評価の高いジョージ・アームストロング・カスターほどのきらびやかさはないとはいえ、実はほぼ変わらない昇進ペースであるのはちょっと面白いところ。もちろん、カスターは10才ほど下なので単純に比較していいわけはないけれど。ヘイズンのもっとも有名な功績はストーンズ・リバーの戦いで戦線を崩壊から救った防戦ぶりであるところは間違いないところだけど、それ以外でも、ブラウンズ・フェリーの戦いでは作戦全体のもっとも重要な部分がヘイズンに振られている。ブラントやシャーマンを中心に発案されているこの作戦で、かれらの幕僚ではないヘイズンがあえて起用されているあたり、けっこう同時代の評価も高かったのではないかと思う。

そのあたりもうちょっと書いてあげたいなと思うところがあるけれど、これがなんと、日本にいて簡単に手に入る資料がまるでない。だいたい、南北戦争の戦史についてまとめられた本が日本でほとんど出版されていないという事実には正直びっくりした。日本って歴史好きの国だしとくに戦争ものは大好きなはずだと思っていたのだけど、諸外国の内戦レベルのものについてはほとんど本としては出ていないようだ。ウィキペディア(日本語版も英語版も)の南北戦争に関する記事はあまり質がよくない傾向にあるのであてにならないし。

仕方がないので英語版の翻訳を種に指定出典を Google Books で拾える範囲で膨らますスタイルで書いた。日本語文献ゼロになってしまったのは残念なところだけど、もともと米国外で知名度のある人物ではないので仕方がない。ビアスの作品に添えられた訳者あとがきやら解説やらには多少出てくるのだけど、とりたてて出典とするほどのものじゃないしね。Cooper, Edward S. (2005) William Babcock Hazen: The Best Hated Man が使えればはるかに充実したものが書けるだろうけど、趣味で取り寄せるにはあまりに高価すぎる。とりあえず今回はこのくらいが限度かな。

ところで、4月9日の新着記事紹介に選出されました。こんなマイナーな人物伝をよくまあと思うけど、素直に嬉しく思う。新着記事に出るのはこれで4本めだったかな?