順調に進みまして、第13章:改良版「ヤコブの梯子」をここに公開もうしあげます。今回の記事はむやみに長くなってしまったので見出しをつけました。
前半・ラッセンディル対ルパート
この章はもうとにかく、ルパートですね。ええ。前半部分でもうおなかいっぱいな感じです。訳していて改めて思いますけれど、『ゼンダ城の虜』は会話に妙味のあるシーンがとても多いような印象があります。作者自身、会話部分のほうが得意だということを自覚していたんじゃないかなあ。第一章では説明部分を読み飛ばすことを推奨しているようなフレーズがありますし。
小説論として、「『と、某は怒りもあらわに言った』みたいに地の文に話者の感情を入れるのはへたくそのやることだ」みたいな議論を見かけることがありますが、『ゼンダ城の虜』は、たしかにその手の副詞句が入った会話文が少ないような気がします。いや、ちゃんと調査したわけではないので気のせいかもしれませんけど、印象としてね。その割には、ああ、こういう気持ちのこもった台詞を吐かせたいんだな、という作者の意思はちゃんと伝わってきて、上の小説論者には満足のいく作家ではなかろうか。
まあなんにせよ、オレ個人としては、この章の前半の対話部分はけっこう楽しんで訳せてます。ラッセンディル対ルパートの華やかな嫌味の応酬をどうぞご堪能くださいませ。もっとも、よくわからんので適当に訳出した部分もあったりはします。
"Oh, God gives years, but the devil gives increase," laughed he. "I can hold my own."
このルパートの台詞、よくわからん。なにせ信仰心に非常にとぼしい人間なので、神様を引き合いに出されると理解度9割減なのです。そこで偉大なる先訳者の訳文を拝借しようかと参照するとこんな感じ。
「ふむ、年は神様の下さるもの、増加は悪魔がくれるもの、」と言って彼は笑った。「僕だって、自分の体くらいは、自分で守ることができるんだぜ」(武田玉秋)
「何、年の寄るのは神様のおかげで、知恵は悪魔って奴がつけてくれるから、年なんかどうでもいいさ。僕は誰とでも喧嘩はできるからね。」と彼は笑っていった。(宮田峯一)
「おお、神は年をあたえたまい、悪魔がそいつを老けさせる、というわけか」とルパートは笑って、「おれはおれで、りっぱにやっていけるさ」 (井上勇 )
え~と。みなさん意見がわかれたようです。これはもう自由にやってかまわないだろうと考え、前後にかみ合って、かつ、ラッセンディルをいびれるような台詞をこしらえておきました。
「ふん、神は一年ずつ年を進めるが、悪魔にかかると突如いくつも年を食うらしいぜ」とルパートは笑い飛ばす。「オレはあたりまえのペースでいきたいね」
う~ん、いや「神が年を進めれば悪魔が利子を膨らます」かもしれない。でもそうすると、"I can hold my own." が何を指すのかわからなくなるし、この直後で interest を「利子」の意味で使ってくるのとも統一性がなくなるなあ、という気もして、結論よくわからない。
後半・で、“ヤコブの梯子”ってどんな形なのさ?
さて、後半部分は番人ヨハンを尋問しながら“ヤコブの梯子”の何たるかの説明にうつるわけですが、残念ながらホープの困ったところが出てしまっているようで。この人、とにかく説明が下手。“ヤコブの梯子”もいったいどんな形状のものなのか、かなりわかりづらくて……もう!という感じ。まあいろいろ考え合わせますと、断面が方形の土管を、輪状に90度角分、窓から水中に向かって延ばした感じと思ってもらえばいいんじゃないかなあ(左図・下手な絵でごめんなさい)。直角に折れた土管のようにもとれますが、それだとちょっと使い勝手が悪そうだし。あと、出口が水面より上にあるような書き方ですが、それはちょっと前後矛盾するので無視することにしました(こら)。
あと、地下の構造に関する「外側の部屋」「内側の部屋」も、相当わかりづらいと思います……。原著の第3章には Howard Ince によるゼンダ城の見取図(右図)があって、これを見るとなんとなく言いたいことはわかります。これを本文にとりこめるかというと、著作権の状態がいまいち明らかでないので、ためらうところがあり……年代的に言えば問題ないと思うのだけれども。
下手な図で恐縮ですが、濠と地下室の断面図(想像)を準備しましたので、この辺で勘弁してください……。
挿絵について
城の見取り図、のところでちらりと触れましたが、Internet Archive に原著のコピーがあがってきているのでそこからイラストなどを確保できるようになりました。ありがたく使わせていただくということで、チャールズ・ダナ・ギブソン(Charles Dana Gibson, 1867 - 1944)による挿絵を入れこみました。この13章のほかにも、5章と10章にそれぞれ1枚ずつ。
Internet Archive の『ゼンダ城の虜』はいくつか版がありますが、1921年(US)版の EPUB フォーマットから抜き出しました。
それにしても Internet Archive / Open Library のオンラインブックモードのなんと使いやすいことか。近デジも負けずにがんばって欲しいなあ。
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