2012/08/29

『悪魔の辞典』 S項を修正。

Satyr の項目が間違っていることに気づいてしまったので、これを直すと同時にいろいろ手を出してしまいました。いつものパターン。

ひとつ。いろいろな単語にウィキペディアへのリンクをセットしてみました。破線のアンダーラインが出ている単語にはウィキペディアへのリンクがしこまれています。日本語版に項目がなければ英語版にリンクしていますが、どちらにリンクしているかを見た目に判断できないのは改善が必要。それぞれ class 属性が "wikipedia" "wikipedia_notja" でわけてあるので実装はむずかしくないのですが、さてどんなスタイルがいいのかが問題で、あんまりいいアイデアが思いつかない。

テキスト自体は、ちょこっとずつ言い回しを調整した部分は割愛するとして、大きな修正は3箇所。

Sacrament

見出し語を「秘蹟」から「サクラメント」へ。以前もどなたかに「『秘蹟』はローマ・カトリック用語だから文脈上不適切ですよ」と指摘された気がしなくもないのですが、あまりカタカナ言葉を見出し語に入れたくないなあという気分があってそのままに(オレの記憶が確かならば)。今回、ウィキペディアにリンクするという方法を導入したのでそのへん気にしなくていいかな、ということで「サクラメント」に変更します。ウィキペディアの記事内容でビアスの言いたいことはフォローできてしまうし。

Satyr [サテュロス]

n. 数少ない、ヘブライ人に認識されているギリシャ神話の登場人物(レビ記17:7)。最初は、バッカスにだらしなく仕える放蕩なコミュニティのメンバーとして登場してくるサテュロスも、多くの変革と改善を実行した。しばしば、ローマ神話が創り出したファウヌスと混同される。サテュロスと比べると、ファウヌスは人というより山羊に近い。

……を、

n. 数少ない、ヘブライ人に認識されているギリシャ神話の登場人物(レビ記17:7)。はじめはディオニューソスにだらしなく仕える放蕩なコミュニティのメンバーとして登場するサテュロスだが、多くの改変と改善がほどこされていった。稀ならず混同される存在として、後代にローマ神話がやや善良な存在として創作したファウヌスがあり、こちらは人よりもヤギに近い風体をしている。

へ。"The satyr was at first a member of the dissolute community acknowledging a loose allegiance with Dionysius, but underwent many transformations and improvements." の underwent の解釈がまったく間違っているはず。サチュロスがトランスフォームとインプルーブされてファウヌスになったところが「人よりもヤギに近い」という皮肉なんだと今にして思う。

だけど、文章としてはもうちょっと練りが必要な感じで、いまいち満足はしていない。

Saw [ことわざ]

第4例文、"Better late than before anybody has invited you." を「言われぬあやまち矯(た)めるにあたわず。」から「遅くとも、呼ばれもせぬのに押しかけるよりまし。」に。なんでこんな訳を当てたんだろう? なんか恣意的にやっている臭いがするけれど、思い出せないので標準的に。

2012/08/13

『グリーン・ゲイブルズのアン』(osawa訳)公開

原作について

カナダの小説家、ルーシー・モード・モンゴメリの代表作です。『赤毛のアン』と言われれば、まずたいていの人が聞いたことくらいはあると思います。

ここでしっかり解説できるといいんですが、実はオレも語ることができるほどに詳しくなく……。いい加減な解説を書くよりもまだましかと思いますので、ウィキペディアの該当記事にリンクしておきます。参考まで。

モンゴメリは1942年に亡くなっていますので、日本での著作権は2003年頃に失効しました。

翻訳について

osawa さんが『物語倶楽部』というサイトで公開した全訳です。プロジェクト杉田玄白方式にしたがうものとして公開されていましたが、2004年以降にサイトへのアクセスができなくなっています。

ただし、Wayback Machine にアーカイブがありますので、今もこのサイトを見ようと思えば見ることは可能です。これを利用して「発掘」する作業を行われた方も、すでにお二人ほどいらっしゃいます。

このたび、オレもまた同じように「発掘」作業を行いました。当初は、章ごとに分かれていたファイルを1個にまとめて、マークアップをきれいにして、縦書き用に数字が漢数字になったテキストファイルを作る。それで終わり、というつもりだったんですが……。

つい校正してしまう……

ところが、回復作業中にうっかり読みはまってしまい、そうしてじっくり読んでみるとどうやらそれなりの誤入力・誤変換が見受けられるので、直してあげたくなってしまい。せっせと直していくうちに、こんどは漢字にするしないというようなスタイル的な部分も手をいれたくなってしまい……。

おかげさまで公開にいたるまでの時間がずいぶんかかってしまいましたが、品質の向上に一定の貢献をすることができたのではないかと思います。修正履歴(1,000件を超えてる……ファイルサイズも700kbと大きいなあ)も公開しておきますが、誤字脱字の類をのぞいた、主な校正内容を列挙しますと:

翻訳としての修正

基本的には原文との照合は行っていないのでたまたま気づいた部分に限定されますが……。

(a) 21章の章題が目次で「妙な味付け」、本文で「味な門出」と不統一だったのを、原文確認の上 (A New Departure in Flavorings)、「妙な味付け」に統一しました。「新感覚の風味を拓く」なんていう手もありそうではありますね。

(b) 31章で "Anne shivered." という一文が抜けていたので、無難なところで「アンは身を震わせた」と補いました。

(c) 37章に、36章のマシューの台詞の引用がありますが、訳語が統一されていなかったため、36章のものに統一しました。

漢字

このあたり、個人の趣味もあるのでなんともむずかしいところですが、「無い」「遂に」「未だ」はほぼ全面的に、「居る」「良い」は8割方(マシューの台詞や「良い子」「良かった」などは残しています)をひらがなにして、文章の印象を少しやわらかく変えています。

逆に、まぜ書きされていた単語を漢字になおしたりしたパターンもあります。「憂うつ」「まい進」など。

また、難読かな、と思われる単語にルビを振りました。ルビを振った中で、38章の「懐く」は文脈上「なつく」と読むべきではなかろうと思い、「いだく」というルビを振りましたが、もしかすると訳者の意図せざるところかもしれません。

約物

「--」を「――」(2倍のダッシュ)に、「...」を「……」(3点リーダ)に、とか。閉じ括弧の前の句点は、なしに統一しました。あと半角スペースなんかをちょこちょこ調整してたりとか。

なお、この部分の修正はほとんど校正履歴に出ていません。あしからず。

「メモ」の扱いについて

この翻訳には、osawa さんがつけた膨大な訳者のメモが伴っています。osawa さん自身、

AGGを訳す時に気になったことや分からなかったこと、 引用や引喩の確認・調査、雑多な感想についてメモしています。 AGGの日本語訳としては既にたくさんの名訳が安く容易に手に入るので、 良かれ悪しかれこのメモがこのサイトの売りではないかと思います。

としていらっしゃるのですが、このメモ書きはライセンスが不明なため安易に引っ張ってこれません……。たぶん問題はないと思うのですけど、とりあえず今回は見送ることにしました。

Katokt さんもそうなんだけど、「本翻訳は……」でライセンスを切られると翻訳以外の部分が微妙になってしまうという罠が。

後日補足

2012/8/17: 「約物」中で「読点」としていたのを「句点」に改めました。間違いです。

2012/08/09

『ミルヴァートン』不具合の調整

文字コードがおかしいのか、表示が乱れる現象が発生していましたのでとりあえず差し替えてみました。いつかもこれが発生したのですが強制リフレッシュで直ったり直らなかったりで良くわからない状態。まあ、とりあえずこれで様子見ですね。

2012/08/03

『グレイト・ギャツビー』修正、あるいは「オールド・スポート」を日本語で表現する挑戦。

しつこく続く修正の一環。今回はギャツビーが口癖のように言う old sport という呼びかけに対する訳語を変更しました。

村上春樹訳では「オールド・スポート」とカタカナ化され、「あとがき」で翻訳不可能であるという旨のことが述べられていて、正直、一読者兼一訳者としては「ええ~!」という、がっかりぎみの感想をいだいたこともあり。というか、そのあとがきを読んで買うのをやめたんですけど、う~ん、これに関しては「正しい」翻訳なんてありえないことは判っているだけに、なんらかの挑戦というかひらめきを見せて欲しかったな、せっかくの機会をもったいないな、と思うわけです。

んで小川高義訳(光文社)は訳出をさけたらしいですが(申し訳ないのだけど、未確認)、まあ、これはこれで一つのやり方かなあと。でも、やっぱり、なにか、挑戦して欲しいよね、というのが正直な気持ち。

といいつつも、翻って自分を見ますと「親友」を当てていたわけですが、これは、野崎孝訳をそのまま流用しているわけで、まあ、結局のところ自分だって機会をなげうっていることに違いはなく。いや、言い訳をすると、サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳)でのホールデンの台詞と齟齬をきたさないように、という遠慮があったわけですが、『ライ麦』もちがう訳が出ましたし、そんじゃあひとつ果敢に挑戦してやろうじゃないかと。

公開当初は漢字で「貴方」がいいんじゃないかと思ったり、しかししょせんそれは字面遊びにしかならないのでやめたりしましたが、しかし今回はふと思いつきました。

尊公。

「御存知だと思っていたのです、尊公。いや、これは気の利かぬ招待主で恐縮です」

「そこにあの戦争が起こったのですよ、尊公」

「何と言いますか、ほら、尊公はそう大金をお稼ぎになっておられるわけではないのでしょう?」

「おれに向かって『尊公』はやめろ!」

ネタ元は、司馬遼太郎『花神』です。二宮敬介が主人公・村田蔵六をこう呼ぶんですが、敬愛の気持ちがすごく伝わるよい言葉ではなかろうか。

訳語としては、「親友」とくらべて、二人称として使うことができるのは有利だと思います(例3みたいに)。台詞としてはかなり不自然ですが、そこはそもそもが不自然なんだし。いまどきだれがこんな言葉使うんだよ、みたいな雰囲気もフォローできてるんじゃないかと。

似た雰囲気のことばに「貴下」がありますが、ちょっと音が好きじゃない(2音は短すぎる!)という意味不明な理由で外しました。「足下」はもちろんダメですし、「大兄」だと、ギャツビーの場合、闇社会とのつながりみたいな色合いがでてしまいそうなので×。「貴公」はどうなんでしょうねえ。オレはこの言葉にあんまり敬意を感じないので採りませんでしたが、日本語としてはこっちのほうが自然かもしれないなあ。

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