2012/07/13

[翻訳] Re: 無料で読める『グレイト・ギャツビー』(青空文庫)

というエントリーを見つけたので、ちょっと内容を検討してみたい。

直訳体なので、もっと日本語を磨いたほうが伝わりやすいのにと思える箇所もある。たとえば、「異常なほど意思を伝えあう」とか「資質が平凡」とかは改善が必要だろう。しかし逆にみれば、凝った言い回しを使っていないので読みやすい。野崎訳はもちろん、それを批判している村上訳も案外古い表現が多い。

なるほど。直訳体については、そうでしょうね。オレは翻訳の際に文章の流れや長さが極端に変わるのをいやがるたちなので、どうしてもそうなってしまいがちではある。そこにあるぎざぎざ感をいかに丸くこぼしていくか。つまり、お褒めの言葉を(ちょっとずるい形で)借用すれば、「直訳体なのに読みやすい」という形こそが個人的な理想なわけだけど、なかなかそううまくはいかないんだよねえ……。

1. 「異常なほど意思を伝えあう」

原文は "unusually communicative" 。そしてじつはこの部分、他の方からも表現が変と言われたことがある。う~ん、でもこの部分は、すごく表現しづらい。"always been unusually communicative" と、「常に~普通じゃない」という表現は一瞬ひっかかるものを感じるし、そもそも「普通にコミュニケイティブ」というのは、いったいどんな状態を指すんだろう?

そんなわけで、ここの部分はオレの読者としてのとまどいがそのまま打ち出してあるわけだけど、そんな中でちゃんと伝えるべきと考えた要素は、「行き交う情報量が普通じゃない」ということだった。少々いびつな表現になってはいるものの、きっと誤りなく読み取ってもらえると思いたい。

で、この部分、もうちょっとつっこんで考えてみたい。問題は、どう普通じゃないのかということ。それはたぶん、「一を聞いて十を知る」的な、増加直線的なものではないように感じる。もっとこう、「一を聞いて一じゃない可能性を知る」みたいな、ひどくまわりくどいコミュニケーションのあり方じゃなかろうかと思う。

たとえば、冒頭の「他人のことをとやかく言いたくなったときはいつでもね、この世の誰もがおまえほどに恵まれた生き方をしてるわけじゃないと思い出すことだ」という父のことばは、普通じゃない (unusual) 解釈をすれば、「自分より恵まれている相手をとやかく言うはよし」ということなわけで、結局、ニックはそれにしたがってか、ギャツビーを「軽蔑するものすべてを一心に体現する男」と言い切ってしまうし、終盤ではトムとデイジーを終盤で断罪するいきおいを示す。そして、ウィルソンに対しては基本的に同情的である。

と、オレは読んでいるのだけど、でも、これは非常に個人的な、そしてたぶん異端的な読み方であって、しかもオレ自身絶対的に正しいとは思っていないくらいなので、翻訳上に示すのはいかがなものか。というわけで、具体的なところは読み手の想像にまかせるとして、「標準以上の」とも「標準以下の」とも解することのできない言葉を選択して、こうなりました。

さて、もし修正するとしたら、どうするだろうなあ。たしか、初稿の初稿では「並大抵でないコミュニケーションのとりかた」だったような記憶があるが、それと比べたら今の方がマシだ。


2. 「資質が平凡な」

う~ん、そうくるのか……。前後を補うと、こうだ。

風変わりな精神の持ち主は、ぼくのような資質が平凡なひとたちの中に現れると、それを目ざとく見出し、すりよってくるものなのだ。

The abnormal mind is quick to detect and attach itself to this quality when it appears in a normal person,

……なるほどと思う。オレの想定では「ぼくのような資質が/平凡なひとたちの中に/現れると」なんだが、たしかにそう読ませるのは無理がある。

"abnormal spirit" v. "normal person" を活かしつつ、これならどうだろう:

並外れた精神は、並みの人物がこの特質をあらわにすると、たちまちそれを察知し、くっつこうとする。

やはり、精神の「持ち主」は補ってやる必要があるか?

並外れた精神の持ち主は、並みの人物がこの特質をあらわにすると、たちまちそれを察知し、くっつこうとする。

……なんだか、ちょっと違うんだよなあ……。持ち主をやめて、特質→心がけなら?

並外れた精神は、並みの人物がこの心がけをあらわにすると、たちまちそれを察知し、くっつこうとする。

appear を少し弱く、attach を少し作った感じで。。。

並外れた精神は、並みの人物がこの心がけを見せると、たちまちそれを察知し、そこにぶらさがろうとする。

……こんな感じでまあ遠からずだろう。理想を言えば語順をそのまま使いたいが、「察知」を前に出すのはかなり無理がありそうだ。

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