2012/08/03

『グレイト・ギャツビー』修正、あるいは「オールド・スポート」を日本語で表現する挑戦。

しつこく続く修正の一環。今回はギャツビーが口癖のように言う old sport という呼びかけに対する訳語を変更しました。

村上春樹訳では「オールド・スポート」とカタカナ化され、「あとがき」で翻訳不可能であるという旨のことが述べられていて、正直、一読者兼一訳者としては「ええ~!」という、がっかりぎみの感想をいだいたこともあり。というか、そのあとがきを読んで買うのをやめたんですけど、う~ん、これに関しては「正しい」翻訳なんてありえないことは判っているだけに、なんらかの挑戦というかひらめきを見せて欲しかったな、せっかくの機会をもったいないな、と思うわけです。

んで小川高義訳(光文社)は訳出をさけたらしいですが(申し訳ないのだけど、未確認)、まあ、これはこれで一つのやり方かなあと。でも、やっぱり、なにか、挑戦して欲しいよね、というのが正直な気持ち。

といいつつも、翻って自分を見ますと「親友」を当てていたわけですが、これは、野崎孝訳をそのまま流用しているわけで、まあ、結局のところ自分だって機会をなげうっていることに違いはなく。いや、言い訳をすると、サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳)でのホールデンの台詞と齟齬をきたさないように、という遠慮があったわけですが、『ライ麦』もちがう訳が出ましたし、そんじゃあひとつ果敢に挑戦してやろうじゃないかと。

公開当初は漢字で「貴方」がいいんじゃないかと思ったり、しかししょせんそれは字面遊びにしかならないのでやめたりしましたが、しかし今回はふと思いつきました。

尊公。

「御存知だと思っていたのです、尊公。いや、これは気の利かぬ招待主で恐縮です」

「そこにあの戦争が起こったのですよ、尊公」

「何と言いますか、ほら、尊公はそう大金をお稼ぎになっておられるわけではないのでしょう?」

「おれに向かって『尊公』はやめろ!」

ネタ元は、司馬遼太郎『花神』です。二宮敬介が主人公・村田蔵六をこう呼ぶんですが、敬愛の気持ちがすごく伝わるよい言葉ではなかろうか。

訳語としては、「親友」とくらべて、二人称として使うことができるのは有利だと思います(例3みたいに)。台詞としてはかなり不自然ですが、そこはそもそもが不自然なんだし。いまどきだれがこんな言葉使うんだよ、みたいな雰囲気もフォローできてるんじゃないかと。

似た雰囲気のことばに「貴下」がありますが、ちょっと音が好きじゃない(2音は短すぎる!)という意味不明な理由で外しました。「足下」はもちろんダメですし、「大兄」だと、ギャツビーの場合、闇社会とのつながりみたいな色合いがでてしまいそうなので×。「貴公」はどうなんでしょうねえ。オレはこの言葉にあんまり敬意を感じないので採りませんでしたが、日本語としてはこっちのほうが自然かもしれないなあ。

[PR] 話つながりのもの紹介

0 件のコメント:

コメントを投稿