2001/05/15

「ミルヴァートン」の謎

「ミルヴァートン」の見所はやはりホームズの無法っぷりにあるとするのが一般的で、軽く思いつくだけでも「不法監禁」「恐喝未遂」「身分詐称」「婚約不履行」「不法侵入」「器物破損」「殺人幇助」「死体遺棄」……あと、他人のものを勝手に燃やすのはなんだっけ? とまあ並べたてられてしまうんだけど、実は、「ミルヴァートン」における最大のポイントはそこにない。

「ミルヴァートン」における最大のポイントは、いかにしてあのホームズ先生はアガサを数日で口説いたのか、というところにある。

あまりこれを論じたものを見たことがないんだけれども(というか、そんなに真剣にホームズ関連情報を集めているわけでもないんだけれど)、これは結構深刻な謎のように思える。だってほんの数日で婚約するところまでいっちゃうんだぜ? あの万能なる英雄ホームズ先生は希代のナンパ師でもあったのでありましょうか。そしてその手口とは一体いかなるものであったのでしょうか。謎は深まるばかりでありますが、以下次号乞うご期待。

2001/05/10

景気よく更新したのもたぶんここまで。

旧「ぼやき部屋」から再録

「火を起こす」は新作。あとはテキスト版の追加。

で、「火を起こす」――"To Build a Fire" のことなんですが。

迷いました。「焚火」のままにするかどうか。でもやっぱり、過酷な環境で生き延びようとする「男」が必死に火を起こそうとするところを描いたこの小説の大切なところは、「火を起こすこと」じゃなくて、「火を起こすこと」だと思うのですよ。事象ではなく行動を中心として見るべきだ、と。そういうわけで、あちこちに題名がでてくるこの小説を大幅に改題するのは心苦しいのですが、勝手ながら「火を起こす」とさせていただきました。「焚火する」じゃあのどかすぎるし。

「モーム百選」に出てくるジャック・ロンドンの「焚火」、村上春樹「神の子どもたちはみな踊る」に出てくるらしいジャック・ロンドンの「焚火」はこれのことです。他からも引かれているんじゃないかな。一応、ここにある「火を起こす」=「焚火」だというのは念頭に置いといていただけるとこれ幸い也。

話は変わるけど、村上春樹はなぜオレが好きな小説を好みますか(100%言いがかり)。むう。まあ何かの縁だからってことで「神の子はみな踊る」は読んでみよう。「風の歌を聴け」「ノルウェーの森」「ねじまき鳥クロニクル」と読んで、惜しいな的評価をしてるひとなんだけど。

そうそう訳自体については、一ヶ所、まったく意味がわからないところがありました。"cross a wide flat of nigger-heads" というところ。コメントアウトしてありますのでどこに出てくるのかはソースで確認を。なんらかの地形の暗喩であろうと思われますが、オレの想像力の範疇外です。それから、雪とか気候、寒さに対する生理的反応の描写も適切でないと思う。なにぶん、雪なんぞめったに降らないところに生まれ育ったもんで、そういうの、知識としてしか知らないわけで。

原文で読みたい方は Litrix Reading Room の The North を探してみるとよろしいかと。

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ジャック・ロンドン「火を起こす」、公開

旧「謝辞:ごめんなさいとありがとう」より再録。

影と光」でロンドンを初めて読んだという人が多かったらしく、ロンドンがああいうのを書いていた人だと思われたら困るな、というかべつにオレは困りもしないんだけど、いろいろ(その人にとって)不都合なことになりそうな気もしないではなかったので、精読をかねてロンドンの代表的短編をやることにした。「焚火」という邦題で有名な、モームの小説百選にも選ばれているやつ。ちょっとアラスカの気候風土が分からなかった、というかアラスカどころでなく雪というもの自体が身近にあるわけではない(当方3センチの積雪で交通麻痺する南国生まれの南国育ち)ため、あんまり出来はよくないかと思います。はっきりいって、全編にわたりオレが雪の世界に抱いている虚像にまみれているんじゃないかと。でも実際よく分からなくって。寒いと手を体に叩きつけるものなの? 題名については……「焚火」で通そうかどうか迷ったんだけど、やっぱり動詞でないとだめだと思う。この小説の本質は「何が起きるか」ではなく「何をするか」だと思うから。だからといって「焚き火をする」じゃのどかすぎるし。

不明部分を調べてみるとネイティブの間でも分からんという話題になってた。cross a wide flat of nigger-head っていうところ。しかも結論が「当時の North People に使われていたスラングで、なんつーかこう、木の幹とか根とかがうじゃうじゃ絡まっているみたいな場所? そんな感じ。でもリソース失念」とかだった。とほほ。

ちなみに翻訳元のテキストは 1908年発表の 2nd Version。既訳は読んだことがないんで、日本ではどっちが有名なのか知らないけど、1902年発表の 1st Version はけっこう話が違う。個人的には 2nd Version のほうがよいと思う。

結城浩さんよりお知恵を拝借。感謝。