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2012/10/15

『悪魔の辞典』の「愛国心」への補注, およびウィキペディアへのリンク付与

補注「愛国心 / Patriotism」

『悪魔の辞典』の中でもっともよく引用される定義のひとつに「愛国心」があります。

愛国心 n. 燃えるゴミ。自分の名を燦然と輝かそうという野心家が持つ松明と解釈される。

ジョンソン博士は、かの有名な辞書において、愛国心は悪党の最後の拠り所と定義されている。この啓発的だがやや劣る辞書編纂者に与えられるべき敬意は払いつつも、わたくしめとしては「最初の拠り所」ではないかと提案する次第。

上記のとおり、ビアスは「愛国心は悪党の最後のよりどころ」の引用元をサミュエル・ジョンソン博士の「かの有名な辞書」としていますが、じつはこれは間違いで、正解は、ジェイムズ・ボズウェルの『サミュエル・ジョンソン伝』1775年4月7日のエントリーです。

Patriotism having become one of our topicks, Johnson suddenly uttered, in a strong determined tone, an apophthegm, at which many will start: 'Patriotism is the last refuge of a scoundrel[1035].' But let it be considered, that he did not mean a real and generous love of our country, but that pretended patriotism which so many, in all ages and countries, have made a cloak for self-interest. I maintain, that certainly all patriots were not scoundrels. Being urged, (not by Johnson) to name one exception, I mentioned an eminent person[1036], whom we all greatly admired. JOHNSON. 'Sir, I do not say that he is not honest; but we have no reason to conclude from his political conduct that he is honest. Were he to accept of a place from this ministry, he would lose that character of firmness which he has, and might be turned out of his place in a year. This ministry is neither stable[1037], nor grateful to their friends, as Sir Robert Walpole was, so that he may think it more for his interest to take his chance of his party coming in.'

Life of Johnson, Volume 2 by James Boswell - Project Gutenberg から引用。

どうやら、愛国者はすべてダメだと言いたいわけではなくて、個人的な利益を隠して騙られる見せかけの愛国心 (pretended patriotism) にダメを出しているようです。最後あたりの自党の利益を云々というフレーズを見ながら、なんとも微妙な気持ちになったり。これ、200年以上前の文章なんですけどね……。

注釈を少し補っておきますと、[1036] の eminent person はエドマンド・バークだそうです。[1037] の「現政権」はノース卿(フレデリック・ノース)内閣。オレの頭の中ではノース卿と言えばアメリカ独立革命時のイギリスのトップですが、それより年代が前なのでそこは無関係と思われます。

ウィキペディア連携

今回も、ほぼそれのみです。「パンデモニウム」がウィキペディアになかったのはちょっと驚きましたが。少し言い回しをいじった部分、用語を変えた部分はあります。

2012/09/18

『悪魔の辞典』からウィキペディアへ U-Z 編。

古い友達と酒を飲みながら、「あの『悪魔の辞典』はお前の文体だよ」と言われ、そうかなあと首をひねる。まあ、かれはこれの翻訳をする前からの知り合いなので別としても、やっぱりふつうに見て「こんなものの翻訳をやっているくらいなのだからこいつは皮肉屋に違いない」と思われているんだろうか。

そんなことないのですけどね。たぶん。オレが信じるかぎりでは。

本題。表題のとおり、U-Z の項目につきウィキペディアへのリンクをセットしました。まだまだリンクを入れるべきところがありますが、あせらずあわてず思い出したようにじっくりいきたいと思ってます。

あとはとくに触ったところはないのですが、逆に言うと間違いであろう部分を放置したところもあり……たとえば UBIQUITY [遍在], WALL STREET [ウォール街], ZEUS [ゼウス] は、たぶん間違っていると思います。

それから、今回、『悪魔の辞典』の全ページに対して形式あわせのための更新をかけました。各ページに、そのページにある見出し語の一覧が表示されるはずです。

じつは『悪魔の辞典』は、公開当時から、URL に #見出し語(英語)をつければ個別にリンクがはれるようになっているのですが、どこにもそんな説明がないし、当たり前ですがどなたもご利用になっていないようです。こうしておけば気づく人は気づくかな、と。

で、この変更はあっというまにできたんですが、これに伴うというか関連するというかの修正がもうたいへん。実はもともとが html 4.0 以前に作り始めたページなので、a name="" が大量にあるというレガシーモード。単純に id に変えてというわけにはいかなかったので(すでに dt id="" で互換性をとっていた)テキストエディタの置換機能を使ってつぶしたわけですが、正規表現が苦手なこともあってなかなかうまくことが運ばず。なんか変なことになっているページがあったら教えてください。

でもこれで今後更新するのは楽になったと信じたい。

でもこれ、最終的にはデータベース化したほうがいろいろ面白く使えるかも。もしするなら、こんな設計だろうか。

  • 見出し語(英語)
  • 見出し語(日本語)
  • 見出し語(ふりがな)
  • 品詞
  • 定義文(英語)
  • 定義文(日本語)

TZE-TZE FLY みたいに見出し語が複数ついてるやつをどうするかは、考えておかないとまずいことが起きそう? あと I みたいなのをどうするか、工夫がいりそう。

2012/09/15

『悪魔の辞典』 A項修正。

なんども繰り返すようだけれども、やはり『悪魔の辞典』は読めてない。この本との関係は、性格は好きなんだけど何考えてるのかよくわからない友達(恋人でもいいけど)とのお付き合いみたいになりつつある。

今回の更新はウィキペディアへのリンクをセットするのが主要な目的だったはずなのにまたテキストをいじりはじめる諦めの悪さ。でも分からないものはやっぱりわからないなあ。AIM [目的] とか。

細かいのははしょって代表的な変更点はこんな感じ。

ABDICATION [退位]

韻文を訳しなおし。「:」の意味合いをちゃんと汲み取れていないっぽいので。

ところで、角川文庫版のこのエントリ、イサベルの部分に訳注が入っていて、「スペインを統一した女王、コロンブスの後援者、1474-1504」と、イサベル1世を指定してあるのだけど、それは違うような気がする。気になったので "The Unabridged Devil's Dictionary" の注釈を調べると、こちらはイサベル2世。リンクは2世にしておきました。

ABRACADABRA [アブラカダブラ]

韻文。押韻無視でだらっと訳出しました。散文にしてしまってもビアス一流の寓話として読める出来ですし。訳もわりとちゃんと出来たんじゃないかと思います。と、恐る恐る。ちなみに Google 先生に質問すると筒井訳が出ますが、いやあ、これはうまいわ、と思いました。いいかげん『悪魔の辞典』を買うのはやめようと思っていたんだけど、まずい、欲しくなってきた。

ABSENT [不在の]

第4文節 "superseded in the consideration and affection of another" を「親切と思いやりに追い立てられた」ではなく「話題性を失った」に。誤訳を修正して誤訳になった可能性大ですしそもそもかなり強引訳です。つか、"supersede" ってこんな使い方ができるの? とか、"consideration" には "the" がつくのに "affection" に "the" がつかないのはなぜ? とか、正直よくわかってないです。

ちなみに、岩波文庫版はこの文節だけカットしてやがります。ズルイ。

韻文も訳出しておきました。押韻無視。

ABSTAINER [節制家]

韻文訳押韻無視。「節制家」という見出し語が使えていない挙句に面白みが伝わりづらいダメ訳……。

ACADEME [アカデメイア]

見出し語を「アカドューム」から「アカデメイア」に。ウィキペディアにあわせた。

ADVICE [忠告]

「最小流通貨幣」から「はした金」に。シンプル志向。

補足的に韻文を押韻無視で訳出しましたが、これまたうまくいった気がしない。

AIM [目標]

見出し語を「目的」から「目標」へ。「ターゲット」でもいいかもしれません。AIM に「まと」の意味があるのを韻文で利用されているため。

……とオレは信じるのだけど、角川文庫版では韻文の最後の一行 "The fact is -- I have fired." が「実は首になったんだもの」になっていて、う~ん、う~ん、う~ん……。そう解釈するには、"I have been fired." じゃないといけなくないかなあ?

まあ、結論としてはこのエントリに関しては散文も韻文も自信ゼロなわけだけど。

ALLEGIANCE [忠実]

韻文訳出。うまくできてるとは思わない。でも散文が存在しない項目なので韻文を無視するとさびしいので仕方なく。

ALLIGATOR [アリゲーター]

打ち消し線を使ったトリックを除去。わかりにくくなったかな。

"West" が固有名詞なので「西欧」に。でもこれがまた間違いの可能性はある。「西部」ではないと思うけど。

ちなみに最後らへんの「ノコギリアン (sawrian)」は、鰐の背中のぎざぎざを「ノコギリ (saw)」に見立ててそこから「トカゲの仲間 (saurian)」に戻すというアクロバットをしたいんだと信じてる。原文は "From the notches on his back the alligator is called a sawrian." とりあえず英語版ウィキペディアの sauria にリンクして手がかりになればと祈るけれど、でも率直に胸のうちをを打ち明けるとさ、おいビアス、つまんないダジャレで喜んでんじゃねえよ、という気分。かれとつきあっているとときどきそういう気分になる。

なお、 大勘違いの可能性はもちろんあります。

ALTAR [祭壇・供犠台]

"the small intestine" を「小さなはらわた」から「小腸」へ。個人的にはかならずしも小腸ではないと思うのですが、まあ字義通りということで。

韻文を訳出。解釈まじりの訳なので、読み方を勘違いしていればいきおい誤訳となるわけですが、さあどうだ。

ARENA [闘技場]

"rat-pit" ということばがいまいちよくわかっていなかったのだけど、ウィキペディア(英語版)で調べるとなんと画像つきで解説 Rat-baiting が。「鼠穴」から「ラットピット」に変更しました。リンク先は英語版のウィキペディアだけど、絵でなんとなくわかると思う。

これもまた繰り返しの繰言だけど、これの翻訳をしていたころにウィキペディアがあったらどれだけマシな状態にできていたことか。

あとは、record を「記録」とする場合は不可算名詞らしいので、「過去」に変えてみました。ちょっと無理がある? まあ、どちらにしても言いたいことは変わらないけれど。

ASS [ロバ(愚鈍の象徴)]

ウィキペディアさまさま。リンクのない固有名詞は、ビアスの捏造と思ってもらって大丈夫なはず……と言いたいけれど、そこの見切りがむずかしいのがまたビアス。Capasia なんかは何かありそうな気がするけれど……。

「『七人の眠れる人』他」になっていたのは初歩の誤訳なのでこそっと直す。

AVERNUS [アヴェルヌス湖]

日本語になっている感じがしなかったので訳しなおし。

2012/08/29

『悪魔の辞典』 S項を修正。

Satyr の項目が間違っていることに気づいてしまったので、これを直すと同時にいろいろ手を出してしまいました。いつものパターン。

ひとつ。いろいろな単語にウィキペディアへのリンクをセットしてみました。破線のアンダーラインが出ている単語にはウィキペディアへのリンクがしこまれています。日本語版に項目がなければ英語版にリンクしていますが、どちらにリンクしているかを見た目に判断できないのは改善が必要。それぞれ class 属性が "wikipedia" "wikipedia_notja" でわけてあるので実装はむずかしくないのですが、さてどんなスタイルがいいのかが問題で、あんまりいいアイデアが思いつかない。

テキスト自体は、ちょこっとずつ言い回しを調整した部分は割愛するとして、大きな修正は3箇所。

Sacrament

見出し語を「秘蹟」から「サクラメント」へ。以前もどなたかに「『秘蹟』はローマ・カトリック用語だから文脈上不適切ですよ」と指摘された気がしなくもないのですが、あまりカタカナ言葉を見出し語に入れたくないなあという気分があってそのままに(オレの記憶が確かならば)。今回、ウィキペディアにリンクするという方法を導入したのでそのへん気にしなくていいかな、ということで「サクラメント」に変更します。ウィキペディアの記事内容でビアスの言いたいことはフォローできてしまうし。

Satyr [サテュロス]

n. 数少ない、ヘブライ人に認識されているギリシャ神話の登場人物(レビ記17:7)。最初は、バッカスにだらしなく仕える放蕩なコミュニティのメンバーとして登場してくるサテュロスも、多くの変革と改善を実行した。しばしば、ローマ神話が創り出したファウヌスと混同される。サテュロスと比べると、ファウヌスは人というより山羊に近い。

……を、

n. 数少ない、ヘブライ人に認識されているギリシャ神話の登場人物(レビ記17:7)。はじめはディオニューソスにだらしなく仕える放蕩なコミュニティのメンバーとして登場するサテュロスだが、多くの改変と改善がほどこされていった。稀ならず混同される存在として、後代にローマ神話がやや善良な存在として創作したファウヌスがあり、こちらは人よりもヤギに近い風体をしている。

へ。"The satyr was at first a member of the dissolute community acknowledging a loose allegiance with Dionysius, but underwent many transformations and improvements." の underwent の解釈がまったく間違っているはず。サチュロスがトランスフォームとインプルーブされてファウヌスになったところが「人よりもヤギに近い」という皮肉なんだと今にして思う。

だけど、文章としてはもうちょっと練りが必要な感じで、いまいち満足はしていない。

Saw [ことわざ]

第4例文、"Better late than before anybody has invited you." を「言われぬあやまち矯(た)めるにあたわず。」から「遅くとも、呼ばれもせぬのに押しかけるよりまし。」に。なんでこんな訳を当てたんだろう? なんか恣意的にやっている臭いがするけれど、思い出せないので標準的に。

2001/07/12

ビアス『悪魔の辞典』、散文訳了

旧「謝辞:ごめんなさいとありがとう」より再録。

文筆家ビアスの集大成。

1年の苦労実ってついに完成。ただ、訳注などの不備がまだまだ山ほどあるし、ぼつぼつバージョンアップしていきます。

「あとがき」は書くつもりでいるけれど、いつになるかなあ。

某氏および結城浩さん、DASUTOさん、fixxさんよりお知恵を拝借。感謝。

それから、勝手に利用させて頂いている電網聖書にも深い感謝を。

奥田俊介+倉本護+猪狩博共訳(角川文庫)、西川正身訳(岩波文庫)には一通り目を通しております。あと、郡司利男訳(こびあん書房)も若干見た(これは手元にないんで……)。

関連書籍

このセクションは再録時に追加しました。

こびあん版はすでに絶版のはず。これがこの中ではいちばんよくできてると思うんだけどね。